2018年6月18日月曜日

プッシュプル用の出力トランス

無信号時にも出力トランスの内部を直流電流が流れています。このためトランスの磁芯には常に磁化されます。

 シングルアンプではトランスを通る電流は真空管の動作範囲の半分の電流を中心に増減します。 だから鉄芯には常時直流磁界が通ります。シングル用のトランスはこの磁界で飽和しないように作られています。プッシュプル用では、上下の巻き線で直流磁界の打ち消しが起こるので、飽和に対する許容量はあまり大きくないのが普通です。

 この直流磁界による飽和の問題から、プッシュプル用のトランスをシングルで使うのは無理ですが、シングル用のトランスをプッシュプルに使うのは(磁力の点では)問題無いはずです。

 一方、プッシュプル用のトランスは2つの巻き線のバランスが必要です。シングル用のトランスでちょうど1/2の位置にタップが出た物があればプッシュプル用になる?? そうだったら、小出力のアンプを作るのに使えるのがあるのではないだろうかしら。

 6Z-P1のシングルアンプに使った春日のKA-1220型は1次が12KΩで、ここに3KΩのタップが出ています。このクラスのトランスなら、タップは5KΩとか8KΩだと思うのですが、それよりだいぶ低い3KΩというのが謎でした。
 ふと気付いたこと。3Kは12Kの1/4ですから、巻数では1/2。そうなると、これはUL接続用のタップとして使うためかもしれません。そして思いついたことは、ここが巻線の中点(からあまりズレていない点)だったら、これはプッシュプル用に使えるのではないか。そうならば、検討中の12AU7-PPアンプに良さそうです。

春日の KA-2110 シングル用12kΩ


 このトランスが使えるかどうか、実物を測ってみるのが早道。6Z-P1アンプを解体するという方法も無い訳ではありませんが、東京へ行ったついでに買って来てしまいました。どのみち使うとなれば新たに購入することになりますから。


 まず、巻き線の直流抵抗。これはVOMで測定。
  0-3K は 290Ω, 3K-12K は 310Ωと320Ω それほど違いはありません。

 次は自作のブリッジで、1次側のインピーダンスを測定。自作なので絶対精度は怪しいけれど、比較にはなります。2次側に8Ωの抵抗を付けて、1KHzで測定。
 0-3K は 3.5KΩ, 3k-12Kも3.5kΩ 2個とも同じ。
 3Kのタップはインピーダンス的にちゃんと中点になっています。
 規格の3KΩより大きいですが、0-12K を測ると 14Kになりましたから計算は合います。

 そこで、12KΩの抵抗を1次側の両端に繋いで、発振機の信号をトランジスタアンプを通して、2次側から 1KHzの0.1 Vを入れてみました。
 0-3K には 2.1V, 3-12K にも 2.1V が出て来ました。これも2個とも同じ。巻数的にも中点のようです。
 電圧が約21倍なので、1次2次の巻数が21倍とすると、インピーダンスでは8Ωの441倍で3.5KΩとなります。上で測ったインピーダンスと合います。つまりこのトランスは、実は14KΩなのかもしれません。


 直流電流が重畳しなない状態で小信号の測定ですから、本来の使用条件とは異なる値が出て当然ですが、それでも3KΩのタップはじゅうぶん巻き線の中点として使えるようです。6Z-P1でシングルアンプに使って、なかなか良い音がしているトランスです。プッシュプルで使っても良い音が期待できそうです。

[製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]