2019年10月14日月曜日

アンプの発熱と電源トランス

大出力アンプはそれ相応に熱くなりますが、真空管アンプは小出力でもそこそこ熱くなります。

 A級アンプでは無信号時には出力に回されない分の電力が出力素子で消費されますから、大出力アンプほど発熱する理屈。AB級アンプでもアイドリング電流が流れます。このアイドリングはトランジスタの場合はかなり少なくて良いので、大出力アンプでもあまり熱くならないのです。
 ドライバ回路はA級動作なので無信号時にも電流は流れます。ここは出力の大小よりも回路方式による違いが効いてきます。動作電圧が高い真空管アンプの方が不利ですが、一般的に見るとトランジスタの方が複雑な回路を使う傾向があるので、この部分は案外トランジスタアンプの方が発熱しているかもしれません。
 しかし真空管にはトランジスタには無いヒーターというやっかいな物があります。特別な物を除くと小型の管でもそこそこの大きさがあり、おおまかな傾向としては、大出力用の管ほど大きくなります。

 私室のアンプは棚の中で使うので、あまり発熱が多いと夏場は困ります。真空管を含む信号回路部分は(各部の動作電流の和×B電圧)で求められます。電流の和は、電源部のフィルターの抵抗のドロップから簡単に求められます。これにヒーター電力を加算すると、回路全体の消費電力になります。この値からアンプの発熱の多少を知ることができます。

 ところが、これらは電灯線の電源からそのまま供給されるのではなく、すべて電源トランスを通って来ます。この部分でかならずいくらかのロスが生じます。このロスもアンプを熱くさせる要素になります。つまり、実際のアンプの熱さを考えるなら、トランスも込みで見なければなりません。

 ふと思いついて、揃った私室用小型真空管アンプの実際の消費電力を測ってみることにしました。それには電源トランスの一次側に入る電流を測れば確かです。教科書的には、ここに電流計を入れれば良いのですが、それには交流電流計が必要です。
そこで、『きわめてアマチュア的で野蛮な方法』を使って測定することにしました。

下記の方法は感電や測定機器など破損する危険が高いです。安易におこなってはいけません。


 延長コードを加工して、片方の配線の途中に1Ωの抵抗を直列に入れました。回路全体から見ると1Ωは無視できる値です。この両端の電圧を測ります。ここに生じる電圧を測ればオームの法則から電流が求められます。たとえば 0.3Vであれは 0.3A流れているので、電力は 30Wという事になります。

測定結果は 昇順に
6AK6 プッシュプル13W
6Z-P1 シングル 20W
6SN7 プッシュプル 21W
6BM8 ULシングル 25W
6BX7 シングル 26W
6AQ5 プッシュプル 29W
6AQ5 シングル 30W
12BH7A プッシュプル 32W
12G-B3/B7 三結シングル 36W

 6AK6-PPと6SN7-PPはヒーター電力が4Wほど違いますが、規模的にはほぼ同じですから3極管と5極管の電圧利用率の差が効いているようです。
 6AQ5 シングルと6BM8 ULシングルはほぼ互角のはずなのですが、6AQ5 シングルがずいぶん高いです。このアンプは(定格では容量に余裕があるはずなのに)電源トランスがかなり熱くなるので、ここの損失が大きいのでしよう。

 12BH7A-PPはかなりA級寄りの動作で、プレート損失では6BM8-Sや6BX7-Sと同程度ですが、ドライパが真空管の6BL8というのが不利に働いてます。6AQ5-PPはを12BH7-PPに合わせて製作しました。だいたい近いですが少し小さく出ています。12BH7-PPの方が電源トランスが熱くなるので、能率の差でしよう。
 かなり超過するつもりで作った12G-B3/B7 三結シングルが意外と低く出ました。このアンプは電源トランスがあまり熱くならないので、トランスの能率が良いのかもしれません。

2019年9月29日日曜日

昔に12G-B7の3結に手を出していたとしたら 仮想ゲーム(2)

あらためて見ると、12G-B3/B7の3結って、すくなくとも6G-A4や6R-A8よりは2A3似近い。そこで2A3の代用にしようと思いついた・・・という仮定で思考ゲーム。

 12G-B7が現役だった頃、私はまだ雑誌の記事を見ながら継ぎ接ぎする程度の知恵しか働きませんでした。というか、だいたいあの頃のアマチュアの多くはメーカの動作例か雑誌の作例の動作をなぞるようなやり方が普通だったと思います。

 12G-B3は、定格が10Wですから、これを守るとすると2A3の2/3しかありません。しかし6G-B3Aの事も考えると、おそらオーディオ用では12~13Wぐらいで使えるでしょう。12G-B7であれば2A3の代役になりそうです。 その場合も耐圧をいくらと見るかが問題です。偏向管としての規格ではG2の耐圧が250Vと低いです。G1との絶縁で抑えられていると考えるなら、3結の場合もこの電圧に収めるべきです。しかしこの電圧はパルス回路で使うビーム管として、実用的な電流で使える範囲を示しているという見方もできます。これは12G-B3がは200Vである事からも推測されます。おそらく絶縁の点ではもっと行けるはず。そうならば、3結なら300V以上でも行けるでしょう。
 当時は定格ぎりぎり、むしろ多少超過ぐらいが普通だったので、300Vで使うとすると2A3とほぼ互角(250Vだとひとまわり小出力)になます。 

12G-B7 は大型の管です

 2A3と違って12G-B7は傍熱管ですからヒーターの処理が楽です。これはプッシュプルにする場合には効果絶大です。しかも、グリッド抵抗の制限が緩いので、固定バイアスにする場合も楽です。

 AB級プッシュプルの動作を考えます。この場合はバイアスが40Vを越えるぐらいになりそうです。2A3よりは少し低いですが、6CA7や6L6などよりも高いです。これが6G-A4や6R-A8だと半分ぐらいになるので、P-K分割でも何とかなります。メーカーはこのあたりを狙ったのでしょう。
 当時なら大型アンプでドライブ電圧が欲しい場合はカソード結合型(ムラード型)でしょう。問題はB電圧がだいぶ低いこと。普通に初段と反転段を直結にしようとすると電圧配分に苦労しそうです。2A3の場合はここにもう1段入れて電圧を上げたりしている回路を見掛けます。グリッド抵抗の事を考えてカソードフォロワーを挟んだりしている回路もあります。
 もっとも、自己バイアスだとその分B電圧を高くしますから、位相反転段の電圧はもう少し上がるので、それで何とかなるかもしれません。ここから発想して悪知恵を働かせると、固定バイアスのマイナスが50V以上あるはずなので、この分で下へ引くという手がありそうです。そしてせっかくマイナスに引くのだから、やはり初段から差動回路となると思うのですが、当時は考慮外だったでしょう。
 事の発端の6CA7-PPアンプではドライバを2段差動にしました。この回路ではDC安定性の理由で2段を直結にしなかったので、電圧配分の問題はありません。+250Vと-150Vで働かせていますが、この電圧で振幅40Vを得るのは全然問題無いです・・・・

 って、結局このへんの話に戻って来てしまいました。

2019年9月23日月曜日

昔に12G-B7の3結に手を出していたとしたら 仮想ゲーム(1)

あらためて特性図見ると、12G-B3/B7の3結って、6G-A4や6R-A8よりは2A3似近い。現役当時にも注目されていて良さそうな物だと思うけど、昔の雑誌などで見た記憶はない。

 2A3は古典管。使いにくい要素満載。逆に言えば、改良して使い勝手を良くするポイントはたくさんある訳です。ならば、自称2A3の後継という管、あるいは他薦2A3のリリーフ役がいろいろあっても良さそう。

 どうやら6G-A4や6R-A8がウリにしたかったのは、ドライブの感度。感度が低ければドライブ段のゲインが必要です。同出力で考えれば振幅が要ります。これを低い電源電圧で得なければならない。これは同時にバイアスが深い事にもなり、そうなると、自己バイアスで使った時の電源のロスが大きくなります。6G-A4は2A3の倍以上の感度ですから、アマチュア的にはかなりハードルが低くなります。
 しかし、これによりμが高くなり、プレート電流が少なくなり、内部抵抗が上がる。ヘタすると歪みも増える。なんとなく"2A3が良い"という理由から離れてしまうような。

日本の近代的真空管は欧米メーカの技術を元にしています


 自称2A3の後継が期待ハズレなら、他薦はどうだろうか。おそらくそういう方向の動きはあったはずです。でもほとんどその跡が残っていません。多極管の3結は2A3の代替にはならない、あるいは別物という意識だったのでしょうか。

 3結で使うとして、規模的に2A3ぐらいになる管があるでしょうか。オルソンアンプは6F6の3結をパラで使ってます。調べ直すと6F6の3結は2A3の半分に似ています。しかし6V6や6L6の系統は3結では電流が小さくなって出力が取れません。6BQ5も同様。
 6BM8は案外3結μが低く出力が取れますが、元々が小さいので出力は2A3の半分。この上のクラスだと、6CA7や6G-B8。この6G-B8は水平偏向管の出身です。ならば、アマチュア的には水平偏向管の3結でオーディオアンプは有りだったのではないかしら。

 プレート損失は-B7なら2A3と同等。3結のμは同程度。電流が多く流れて内部抵抗が少し低い。ヒーター電力は少し大きいですが、傍熱なので扱いやすさは段違い。グリッドバイアスの抵抗を高くできるのは大きなメリットと思います。プレートキャップが必要ですが、当時であれば入手は容易。当時の価格は大差なさそうですが、-B7はテレビのジャンクという手もありましたから、アマチュア的には面白そうなのですが。

注意: 記載の数値は"てきとう"です。ちゃんと計算してません。


 12G-B3や-B7が現役だった頃。これらを3結にして有名な2A3の代替に使ってアンプを作る・・・という仮定で思考ゲームです。(あくまで思考ゲームです。)今回製作したアンプは、12G-B3をかなり軽く使って、ドライブは半導体です。これは現代の発想。当時の常識に合わせたな回路を考えます。

 当時を想定していますから、半導体は電源のダイオード以外使いません。-B7を定格一杯の15Wで使います。出力トランスは2A3用が使えそうです。(G2の耐圧を考慮すると)電源電圧は2A3より低目で250V~300Vぐらいでしょう。これで少し多目の60~70mmAほど流して・・・やはりほとんど2A3の置き換えです。

 バイアスが少し浅くて30V程度。当時の使い方を想定すると、適度のNFかけるのに必要なゲインは100倍ぐらい。これを低いB電圧で得る。そのためには6AU6とかgmの高い5極管を使う。しかしこうするとインピーダンスが高くなって、3結の出力管をドライブするのが苦しくなるので、3極管のカソードフォロワーを入れる。これに12AU7の半分を使うのは・・・ならば、5極3極の複合管の方が合理的。6BL8とか6AN8とかちょうど良さそうです。B電圧が(150Vでは厳しいですが)200Vほどあれば必要な振幅は得られそうです。

 って、今回半導体で作った回路と同じような物になりました。これなら、当時のラジオ少年でも製作できたかしら? でも、当時はカソードフォロワーはあまり一般的で無かったですから、12AU7+12AU7で3段アンプにして発振に悩まされたような気がします。

2019年9月16日月曜日

音声出力用3極管

 昔から熱烈な3極管支持者はたくさんいます。使い方にもよるけれど、3極管と多極管は違う音がするのは確か。問題はその差をどう考えるか。

 音声出力用の5極管は純粋なオーディオ用はもちろん、小電力の小型セットから業務用システムまでいろんな所に使われていて、用途に合わせた大小さまざまの音声出力用の管が作られました。
 熱烈な支持者があるのだから、当然3極管には音声出力用に特化した性能の管がいくつも作られていて良いはずです。しかし、いつでも多く出て来る管は 古典管の2A3。それしか無いのか、代え難い何かがあるのか。だから使いにくくても我慢して使う。そのうちに、これを使いこなすのが目標になり現代に至ったという感じかもしれない。

12G-B3 と 6BX7 / 発熱の大きな6BX7の方が管が小さいです。


  あらためて2A3のスペックを見てみます。直熱管でヒーターが2.5Vの2.5Aですから、傍熱管なら6.3Vの1~1.5Aぐらいでしょうか。許容損失は15Wありますが、Ebが300Vです。内部抵抗が0.8Kと低いですがμが4と低いです。それにともなってバイアスがたいへん深くなります。グリッド電流が流れやすいらしく、グリッド抵抗が自己バイアスなら500Kですが固定バイアスなら50KΩとなっています。つまり、ヒーターの事は別にしても、かなり使いにくい管です。

 『和製2A3』と言われる6G-A4をあらためて見直すと、簡単に2A3程度の出力が得られる3極管という感じで、スペック的にはまったく別物。Ppは少し小さい13Wで、Ebが350Vと高いです。しかし、元の6BX7から引き継いで、μが10と高く内部抵抗も1.4Kあります。その分でバイアスが半分ほどで済みます。グリッド抵抗が固定バイアスでも250Kなので、ドライブのしやすさは段違いです。
 これが6R-A8だとPpが15Wで2A3と同じですが、管形を考えると厳しそうです。μが10は6G-A4と同じですが、内部抵抗は少し低い。gmが少し高く、バイアスが低くなってます。最大出力は2A3と互角というのですが、それにはぎりぎり高い電圧をかける必要があります。やはり2A3の後継代替ではなく全くの別物。なにより、この6R-A8はビーム管の6R-B10を内部で3結にして生まれた管。純粋の3極管では無いという意見も。

 有名なオルソンアンプは6F6の3結のパラ。確かに6F6の3結は2A3の半分に似ている。純粋の3極管にこだわらなければ5極管の3結で済む。だから音声出力用三極管の新種は需要が低かった??

 12G-B7を3結にすると、Ppの15Wは2A3と互角(12G-B3は10Wで考えておくべきでしよう)。μは6ぐらいですが、内部抵抗はひとまわり低く0.5KΩぐらい。つまり2A3より低い電圧で電流が流れる管。3結の耐圧は不明ですが、低い電圧で電流が流れますから、プレート損失で先に抑えられます。3結時のグリッド抵抗は不明ですが、出自を考えるとおそらく固定バイアスでも250K以下という事は無いでしょう。バイアスが深い分、ドライブ電圧が要ります。B電圧が低くなる分を考えても、回路的な難しさは2A3より低い感じです。12G-B3/B7が現役だった頃、このような使い方に気付いた人もいたはずです。

2019年8月8日木曜日

12G-B3/B7 シングルアンプ 完成

子ども時代に廃品のテレビの中でよく見掛けた管。縁あってこれでオーディオアンプを作ることになりました。長年の電気系工作の締めくくりにふさわしい物になりました。

 ゲルマラジオから始まって、真空管でラジオを作り、アンプに作り替え。それからトランジスタに移り、オペアンプに至る。デジタルの横道に逸れて、そのまましばらくマイコン関係に引きずり回される。それが一段落して、ふたたび真空管でアンプを作ることに。

 手持ち部品を浚って、足りない物を拾い出して日本橋をひと巡り。漏れなく揃えたはずなのに、やはり勘違いがありました。通販という手もあるけど、送料も要るし時間もかかる。 それで今日は日本橋の部品屋へ。交通費がかかって高価な抵抗器になりました。それを取り付けて、あらためて試運転。

 子ども時代には、それこそ最初のゲルマラジオのダイオードからして、廃棄テレビを解体して入手したもの。当時は神戸の片隅に住んでいました。神戸市内に電子部品を扱う店がいくつかありました。しかしそこまで行くのは時間も交通費もかかります。大物はまとめて買うけれど、実験と称してあちこち改造して遊ぶには抵抗やコンデンサがいろいろ要ります。いちばん手軽にこれらを入手する方法が廃品テレビなどの解体。倹約にもなります。しかし、当時はテレビの中の真空管を使おうと思うことはありませんでした。それがぐるっと1周回って風変りなアンプになりました。

外観を整えました。12G-B7を挿してみました。
  振り返れば、真空管とトランジスタの比較論争がありました。そこから派生してOTLからOCLを経てDCアンプとか広帯域という方向も。まだモノラル派が生き残っている中で4チャンネルステレオという物も現れました。そうなると、周波数特性と歪率だけで済ませていたのが、位相特性や混変調も考えなければならなくなる。その折々に過去の亡霊のように現れた『3極管vs5極管』の論争。それはその後の縦型FETやMOSFETの時にも。

 縁でやって来た12G-B7。そこから始まった今回のアンプ製作。結局、3結でシングルアンプになりました。3極管のシングルアンプは 6BX7を片方づつ使ったのがあります。規模的には大差無い物で、設計の基本方針も同じです。使った抵抗やコンデンサはどちらも普通のトランジスタ用。出力トランスも最近の普通クラスの製品。でも、出て来た音は全然違う傾向。どちらが良いとかではなく、それぞれ好みか気分という微妙な違い。

 試運転のあとは、完熟運転。その合間にwebページ用の写真撮影。入手した管は12G-B3と12G-B7で、メーカーはいろいろ。念のため差し替えてチェックします。

2019年8月7日水曜日

12G-B3/B7 シングルアンプ 製作ほぼ完了

子ども時代よく見掛けたテレビの水平偏向出力管。これでオーディオアンプを作る。子ども時代には考えもしなかった事。

 けっこう見掛けたけれど使う事など全然考えなかった水平出力管。やはり子ども時代に手を出さなくて良かったです。

 水平偏向管はテレビの中で最大の真空管。プレートキャップまで含めると6CA7より背が高いです。これを10mm下げて取り付けましたが、それでもけっこうな背丈。これが12G-B7になると太さも半端じゃない。使用したトランスも他より大柄なので、ずいぶん存在感のある物になりました。

動作試験中 日立製12G-B3を挿してます

 昨日でシャシーに取り付ける部品は全部付いて、そのあたりの配線もすべて終わってました。そのかわり残ってたのがドライバの基板まわり。
 私室用の小型アンプはドライバ回路が半導体の物がいくつもあります。管を載せるスペース的な事もありますが、発熱低減には効果的です。当然、管が大きくて発熱も多いこのアンプのドライバは半導体。低い電圧で振幅とゲインが必要ですから、真空管で作ろうとするとなかなか難しそうです。
 トランジスタ回路としては簡単な物ですが、ラグ板に架空配線は難しそうです。やはり穴開き基板に盛りつけるのが妥当でしょう。ガラスエポキシのスルーホール基板なんて物もかなり安く買えるようになりましたから。

ドライバ部が基板に載っているので中はすっきりしています。(NF関係が未配線です)

  基板に取り付ける部品はすべてトランジスタ用。このあたりは、パソ関係も含めてあれこれ作って慣れた工作。手もとに使い残った部品をなるべく使うようにしました。電解コンはすべて新しい物ですが、フィルム系コンデンサは使い残りが多いです。結合コンデンサは2個並列にしています。FETは以前に袋買いした残り。トランジスタは6Z-P1シングルの時に念のため余分に買った残り。
 不足部品を買いに行く直前に定数を見直した関係で、 使えると思っていて見間違っていたのがありました。幸いというか、NF用の抵抗なので、とりあえずここは後で取り付けることにして空けてあります。明日でも買いに行く時間が取れるでしょうか。

  という次第で、負帰還無しの状態で、ひととおり動作チェックと音出し。電源電圧が予定より少し低かった事と、出力管の電流が特性図より少し小さいことで、出力管の損失は約7Wになりました。それ以外は想定の範囲内。
 負帰還無しのまま、しばらく音出しを続けました。真空管やシャシーの温度も熱くて困るほどではありません。最初は何ともバランスの悪い音でしたが、1時間ほど経つとけっこう普通の音になりました。裸のシングルアンプとしては意外なほど、低音もしっかり鳴りますし高音も透明感があります。有名な2A3の音は覚えてませんが、12G-B3の3結はけっこうイケるのかも。

 このまましばらく鳴らして、(正規にNFをかけて)外観を仕上げれば完成です。

2019年8月6日火曜日

12G-B3/B7 シングルアンプ 製作途中

子ども時代、身近にあったのに使う事なんて全然考えなかった管。これでアンプを作ろうとしてるけど、意外と手強い。

 聴き比べるつもりで私室用のアンプに仕立ててます。当然同じシャシーの上に同じような部品配置。しかし、少しの違いの積み重なりが案外手強い状態になりました。

シャシーに付く部品はひととおり全部載りました。


 真空管が大きいです。プレートキャップが付きますから、その配線も要ります。特に12G-B7はベースも普通のGT管より大きいです。発熱の大きな管なので通気も考えなければなりません。バイアスが深くて電流が大きいですから、カソード抵抗の発熱も大きくなります。電源のフィルタの抵抗も発熱します。既製品で使える物を選んだ関係で、電源トランスはかなり大柄です。出力トランスも大きいです。 あれこれやりくりして、何とかぎりぎりぴっちり納まった感じです。

発熱の大きな抵抗はタイトラグを介して取り付けています。

 狭い部分があるので、部品を取り付けは順番を考えてしなければなりません。後から付けにくい線は先にハンダ付けしておきます。今までにいくつか製作した際の失敗を振り返りながら少しづつ進めますが、やはり何箇所か手戻りが出ます。位置修正が必要な箇所もありました。

 それでも一応シャシーに付く部品は全部付きました。出力管まわりは、すべてサプパネルに載ってます。出力トランスの引き出し線の余りはシールド板の下で処理できています。2次側の線はタイトラグで中継して、ヘッドホンジャックからスピーカー端子へと、このあたりは他のアンプと共通の処理です。電源まわりは、結局1枚のタイトラグに載せるようにしました。

 あとは、ドライバ部の基板を作って、シールド板の上に取り付けるだけ。

2019年8月2日金曜日

12G-B3/B7 シングルアンプ 製作開始

子ども時代、身近にあったのに使おうなんて全然考えなかった管。今ごろになってそれでアンプを作るという。

 考えてみれば、長年の電気系工作の締めくくりにふさわしいのかもしれません。急ぐ事はありませんから、あれこれ振り返りながら少しづつ作ります。なんとなく勢いであれこれ作って来た私室用小型アンプもこれで打ち止めですから、それぞれの製作の際の工夫も盛り込みます。

 私室用の小型アンプはすべて最初に作った12BH7A-PPで使ったのと同じシャシーに載せています。前面と背面の配置も同じに揃えています。このアンプもそれにならいます。
 12BH7A-PPを製作する際には、なるべく小型化する意図で部品が載るぎりぎりの大きさのシャシーを選びました。その後製作した物は、部品が小型であったり回路の一部に半導体を使ったりで、このシャシーで余裕がありました。今回製作する 12G-B3/B7アンプもドライバは半導体ですが、管自体が大きくトランスも大きいのでシャシー上は窮屈です。そして真空管の発熱も大きいので、その配慮も要ります。

 シャシーにグラフ用紙を貼って、部品とネジを書き込んで位置を調整しました。前面はあとで文字を印刷した透明ビニルを貼りますから、その原稿を紙に印刷して貼り付けました。 

部品を載せて干渉が無いか位置を再確認します

 重量バランスの点では良くないですが、6Z-P1シングルの経験から管の見栄えを考えて『真空管を前に並べて後ろに出力トランスを置く』配置を考えました。並べてみると、横幅にぎりぎり収まりました。
 この真空管は発熱が大きいですから、管壁が熱くなりすぎないように通気を確保します。そのために、サブパネルを使用して真空管を1段下げて取り付けます。これは背の高い6BM8の見栄えを改善するために使った手法で、6AQ5シングルアンプでは熱対策として使用しました。6BM8はMT管なのでGT管用の30φの穴で済んだのですが、今度使う12G-B7はベースが太いですからだいぶ大きな穴が要ります。左側の真空管は出力トランスの中心より少し右にずれていますが、これはサブパネルがヘッドホンジャックと干渉しないようにするためです。
 電源のケミコンには基板付け用のコンデンサを使います。入手の点から太短い物になったので、廃品のブロックコンの中身を抜いて2個重ねて入れます。つまり昔風の2個入りコンデンサと同じ感じで、電源トランスの前に1個だけ立つ形になります。


穴開け加工したシャシー

 課題は真空管を沈めるための大きな丸穴をどうやって開けるか。このシャシーはアルミが薄いので、力のかかる加工だと歪む心配があります。結局、電動の糸ノコを使うことにしました。そのため、この部分は内側にも位置を書いた紙を貼りました。その流れで、電源トランスの角穴も電動の糸ノコで切りました。ブロックコンの穴は30φで済むのでここはシャシーパンチを使いました。あとは、普通にドリルとヤスリの作業。

 穴開けが済んだら水洗いして、ステンレスたわしでヘアライン状に仕上げ。これは加工時のキズを隠すだけでなく、使用中のキズや汚れが目立ちにくくなる効果もあります。


 次はサブバネルの加工。それから電源まわり?それともドライバ回路の基板か?
 

2019年6月17日月曜日

12G-B3/B7の3結アンプに使うトランス

水平偏向管を使ってアンプを作る。子ども時代に思いついたとしても、大きな難関となったと思われるのはトランス。今ならクリアできそうです。

 12G-B3/B7は3結にすると、低い電圧で大電流が流れる特徴はそのまま、 素直な特性になるようです。3極管で電圧の割に電流が大きいというのは内部抵抗が低いという事。これはそれで有名な2A3以上です。しかしそうなると低インピーダンスで大電流を流せる出力トランスが必要です。2A3用は3.5KΩですが、最適なインピーダンスはこれよりも低くなります。昔のトランスメーカーのカタログには、そんなトランスは載ってませんでした。電源100Vをそのまま半波整流するトランスレスラジオ用の管は2KΩぐらいのトランスを使う物もありましたが、これらでは電流が足りません。

 現在、一般アマチュア向けに販売されている真空管用の出力トランスの定格はネットで調べられます。 ひととおり探してみると、「春日無線変圧器」と「東栄変成器」の製品で2KΩで5Wという仕様の製品がありました。どちらも重畳電流は定格内です(東栄の方が若干大きい)。
 これらは通販可能ですが、秋葉原に実店舗もあります。所用で東京に行ったついでに東栄に寄って見ました。あれば買って帰る程度のつもりでしたが、幸い店頭在庫がありました。型番はOT-23SRで1次側が3Kと2KΩで許容重畳電流が100mAあります。購入の際に聞いた話しでは、やはりあまり売れない製品だそうです。
 
東栄変成器のトランスを使うことになりました

 難関の出力トランスがクリアできたので、検討したプランどおりに進められます。

 電源トランスはいくつかの方法が可能ですが、今回はあまり面倒な事はせずに既製品をそのまま使うことにしました。使えそうな製品は 「春日無線変圧器」と「東栄変成器」にあり、どちらも規格はほぼ同程度です。出力トランスと一緒に購入したので、東栄のPT-22Nを使うことになりました。B電源が140V(CT)で220mA、ヒーターは6.3Vの2Aが2つ。容量的には余裕たっぷりです。

 という具合で、要となるトランスが揃いましたから、あとは少しづつゆっくり進めるだけです。

2019年5月19日日曜日

12G-B3/B7 オーディオアンプにする (2)

多くの家庭用テレビで使われた12G-B7。子ども時代には完全にスルーしてたけど、あらためてアンプにする事にしました。

 しらべてみると、真空管マニュアルに12G-B3の3結の特性図が載っていました。原型と言われる25E5も載っています。見比べると微妙に違う感じもしますが、設計上問題になるほどの差ではありません。おそらく12G-B7も同じような感じでしょう。ここから設計を始めます。25E5のSPICEのデータがありましたから、これも併用してチェックすることにします。

 全体の発熱量を抑える必要もあるので、定格に対して余裕を見てプレート損失を8W程度で考えます。これを基にB電圧を決めます。
 400Ω負荷のOTLアンプにも使われた管です。3結にしても低電圧で大電流が流れます。 P-K間約150Vで60mmAほど。パイアスが約-22Vになります。このあたりの動作で使える出力トランスを探すと、東栄変成器と春日無線の製品にインピーダンス2KΩの物がありました。重畳電流も許容範囲内です。 (子ども時代にこの管でアンプを作ろうとした場合、適した出力トランスを入手が難しかったと思います。)
 電源トランスは、ヒーターの12.6Vは6.3Vの巻き線2つを直列にすれば済みますが、B電圧が低くて電流が大きい物が必要です。12AU7-PPアンプの要領で絶縁トランスを利用することもできそうです。 特注という手もありますが、探すと(容量が少し過大ですが)使える既製品がありました。

水平偏向出力管 12G-B7, 12G-B3, 25E5

 ドライバはなるべくシンプルな回路にします。出力管が大きいのでシャシー上にはほとんど余裕がありませんから、半導体で構成します。ヒーターが無いので発熱を抑える意味でも効果的です。6Z-P1シングルアンプと同様にJ-FETと高耐圧のトランジスタのカスコードを使うことを考えます。

 バイアスが深いという事は入力に大きな振幅が要るという事です。そして、その分感度が低いという事にもなります。出力段のゲインは約1/4倍。適量のNFをかけて、私室用アンプ基準の仕上がりゲイン約15倍にするには、ドライバの裸ゲインは200倍以上要ります。これを低いB電圧で確保しなければなりません。そのためには電流を少な目にして負荷抵抗を大きくするのですが、出力管を3結で使うので(G2の遮蔽効果が効かないので)入力容量が大きくなります。これをカバーするため、エミッタフォロワを挟むことにします。(子ども時代ならば真空管で作ることになる訳で、これはかなり苦しかったと思います。)

 3極管接続する場合、教科書的にはG2をそのままプレートに繋ぐのですが、安全のため直列に抵抗を入れます。大電流の流れる5極管やビーム管では、寄生振動が発生する事があり、G2を焼損するトラブルの原因に挙げられます。直列抵抗はこれを防止するのに有効らしいです。おそらくこれはG2のインピーダンスを上げる効果でしょう。この点では、3結の場合こそ抵抗を入るべきだと思います。6R-A8や6C-A10などは異常発振や異常発熱が起きやすいと言われましたが、これらがビーム管を内部で3結にした構 造であることと関係がありそうです。

 私室用の小型アンプの一員として作るのですから、前面と背面を同じに揃えます。これまでの製作では手持ちを極力活用して来ましたが、すでにほとんど使いきっているので新規購入する物が多くなりそうです。大阪日本橋で揃わなければ秋葉原あるいは通販で購入することになります。
 おそらく難関となるのは、プレートキャップと電源のコンデンサ。これらは外観にも関わるので悩ましいです。

2019年5月18日土曜日

12G-B3/B7 オーディオアンプにする (1)

子ども時代、手近にあったけど手を出すことは無かった真空管。今さらだけどアンプにしてみようと思います。

 縁でやって来た真空管は12G-B7。部品取りに解体した廃品テレビの中で見た記憶があります。当時はこれを使おうとは思いませんでしたが、もしこれを使ったとするとどんなオーディオアンプになったでしょうか。

 あらためて調べてみると、6.3V管の6G-B3A/B7のオーディオ用としての使用例がいくつか出て来ました。そのままピーム管のプッシュプルで使うと、300V程度のB電圧で40W級のアンプになるようです。しかし規模的に子どもの手に負える物では無さそうですし、このような用途ならば6CA7や6L6の方が使いやすそうです。雑誌などの製作記事には400Ωスピーカー用のSEPPアンプがいくつかありましたが、真似してジャンク部品で作れるような物ではありません。
 12G-B3/B7は、低い電圧で大電流を流すように作られた管で、ビーム管としての特性は綺麗ではありません。この点からはシングルアンプは不適当な気がします。ところが、規格表にある3結の時の特性図はたいへん素直です。有名な2A3には及ばなくても、現代的には使いやすい感じです。どうやら3結で低内部抵抗の3極管として使う方が面白そうです。

 シングルで使うならメーカーや使用歴が違っても支障無いです。ステレオにするので相方が最低1本、継続的に使うなら数本は必要です。テレビで使われて多少くたびれた管でも良ので、安い出物があるか探して見ました。
 真空管テレビが終わると保守用に確保されていた真空管はあちこちで投げ売り状態になりました。その中には12G-B3やB7もありました。その後作例がいくつか紹介されたこともあってか、かなり価格が上がったと聞いていました。しかしあらためて探して見ると、開封品(ほとんど使っていない?)の12B-B3と12G-B7がずいぶん安価に出ているのを見つけました。

12G-B3 と 12G-B7 いろいろ


 小ネタ半分なので、あれこれ繋ぎ替えて聴き比べできる私室用のアンプにします。同じシャシーを使って外観を揃えます。仕上がりゲインも揃えます。
 ドライバは、当時のテレビ管の仲間から選ぶとすると、中間周波増幅に多く使われた3CB6あたりでしょうか。しかし今回は大きさと総発熱量の関係から半導体を使います。6Z-P1シングルアンプで使用した手法で、J-FETとトランジスタをカスコードにすると5極管に似た特性になります。

 私室用のアンプは棚の中で使用するので発熱が大きすぎると困ります。12G-B3の3結の許容損失は12Wあるいは13Wという説がありますが、規格上は原型の25E5と同じ10Wです。ここからさらに軽減して約8Wで考えます。しかしテレビの水平偏向管なのでヒーター電力が約8Wもあります。このため管2本分で合計32W程度。電流が大きくバイアス電圧が大きい管です。これを自己バイアスで使うのでカソード抵抗の発熱が大きくなります。全体では常用している12BH7A-PPアンプよりだいぶ発熱が大きいことになりますが、この程度なら、真夏でなければそれほど困ることは無いと思います。

2019年5月12日日曜日

ビーム管

2極の真空管に格子を加えて制御機能を持たせた3極管。さらに極を追加した4極管。しかし4極管は優れた特徴を持つかわり、欠点もありました。

 大型の出力管はビーム管が多いです。シンポル図ではSGとプレートの間に翼のような物が描かれます。これはビーム形成板と呼ばれますが、これがビームを作っている訳では無さそうです。

 4極管の説明について、プレートとグリッドの間にもうひとつグリッドを追加したと説明される事が昔から多いと思います。確かに高周波増幅や小信号増幅で(G2電圧がプレートよりかなり低い動作で)は、静電シールド効果が目立つのでスクリーングリッド(:遮蔽格子)という名が合うのかもしれません。一方、プレート電圧が低い領域ではG2が積極的にカソードの電子を引っ張っているので、加速電極だという解説もあります。この場合もプレートの電圧の変化を隠しているという意味の説明が付きます。
 しかし実態はかなり違うのではないでしょうか。特性の点で効いてくるのはプレートの位置や大きさではなく、G2の位置とその形状ですから、3極管のプレートを透け透けにして、その外側に第二のプレート置いたと考えるべきなのではないでしょうか。そう考えると、4極管は3極管のカスコード接続(上側は中途半端なA2級動作をしている)と見なせないでしょうか。

 4極管の問題のひとつはG2に流れ込んでしまう電流。G2の電圧がプレートより高くなる区間が広くなる大振幅ほど影響が大きくなります。これを軽減する工夫のひとつがグリッドの目合わせ。これにより、G1で絞られた電子流がそのまま勢いよく直進してプレートに当たる。

6L6-GC と 12G-B7 遠縁の親戚関係

 ビーム管の要はグリッドの目合わせ。この電子流が停滞せずにプレートに流れ込むには、G2とプレートの間隔も重要です。しかしグリッド支柱の付近はビームが整わず、プレートとの間隔も取れません。ビーム形成板はこの部分を隠しているように見えます。ビーム管はグリッドは微妙ですが、プレートはかなり自由が利くようです。

 ビーム管の古典といわれるのが6L6。12G-B3/B7系のライバルにあたる6BQ6の元を遡るとここに至るらしいです。メタル管からガラス管になって6L6-Gとなり、プレート引き出しを頂部に移して送信管になったのが807。これそのものもテレビの水平偏向にも使われたらしいですが、初期の専用管の6BG6はパルス回路用に耐圧を上げ電流を増した物のようです。

 この6BQ6のプレートを拡大して容量を増したのが6DQ6で、これに習って12G-B3のプレートを拡大した物が12G-B7です。一方、この過程を追って6L6の特性はそのままに容量を大きくして生まれたのが6L6-GCらしいです。だから6L6-GCの外観は水平偏向管とも少し似ています。
 製造時期は少し違いますが、同じ東芝製を並べてみました。プレートは6L6-GCの方が少し長く、12G-B7の方が少し厚いです。12G-B7のカソードが大きいのが目立つほかは、内部の構造はよく似ています。

2019年5月2日木曜日

水平偏向出力管 12G-B7と12G-B3


縁でやって来た12G-B7。これはテレビの水平偏向出力管。昔のテレビで映像が映る部分はブラウン管と呼ばれる巨大な真空管。

 プラウン管は、おおまかに言えば円錐と四角錐の中間のような形。底面を手前にして横倒しになっています。奥側にある頂点から手前のアノードへ電子が飛んでそこに塗られた蛍光体に当たると発光する。この電子の流れを上下左右に振り回して映像を描く。テレビのブラウン管では、電磁石を使って(フレミングの法則)電子の流れを振り回していました。これが偏向。日米のテレビでは、毎秒30枚の画像を送って来ますが、1画面を1ラインずらして2回で描くので、垂直の動きは60Hz。1画面は水平の線525本で描かれるので、水平の動きは約15kになります。音声の帯域の上下ぎりぎりの所にうまく設定されているように思います。
 強力な電磁石を駆動するのですから、偏向管が扱う電力はどうしても大きくなります。特に高い周波数で大振幅が必要な水平偏向はたいへんです。さらにこの回路はブラウン管の電子流となる高圧発生も兼ねています。そのため、ここには大型のビーム管が使われました。

日本式型番の真空管 大きさは似ていますが能力は4倍ほど違います

 12G-B3はテレビの水平偏向出力用の真空管です。型番の示すように日本独自の規格の真空管です。家庭用のテレビには日本的な事情に合わせて作られた日本独自の真空管がいろいろ使われていました。
 初期の水平偏向出力には6BQ6など米国系の系統の管が使われたようです。欧州系の真空管を作っていた松下はPL36/25E5を製造しましたが、これは特殊な構造のフレートを持っていて、低い電圧で大電流が流せます。これは電源電圧が低い日本には好都合。しかし25E5は欧州のトランスレス管でヒーターが300mA。日本向きの600mA管が欲しい・・・

 そこで東芝が作ったのが12G-B3。25E5のヒーターを100V用に600mAに変更したような管。12G-B3は、昭和30年代を通して日本の各社のテレビに使用され、多くのメーカーが大量に生産しました。
 特性図では原型の25E5と微妙に違いがありますが、偏向用としては同特性と言われます。定格も少し違いますが、当時の定格の考え方はかなりあいまいだったので、実質的には同等のようです。どちらも長期間に少しづつ改良され、製造時期やメーカーによって構造に違いがあり、実際の定格は途中で少し大きくなっているという話もあります。
 その後、テレビの広角化と大画面化にともなってより大きな偏向電力が必要になり、12G-B3をひとまわり大型化した12G-B7が登場しました。管が太くなりプレートも大型になっていますが、(偏向用としては)特性を同じに揃えてあり、修理の際にそのまま差し替えて長寿命になるということでした。

 この系統の管はテレビではスニペッツが出やすいという欠点があったようです。特殊なプレート構造の関係か、プレート電圧の低い領域の特性が悪いのが原因らしいです。これはビーム管としてシングルアンプに使う場合には注意が要りそうです。

2019年4月24日水曜日

テレビ用真空管

私の子ども時代のテレビは真空管。しかしそこに使用されていた真空管はラジオやアンプなどでは見掛けない型番の物ばかりでした。

 最近になって、12G-B7という大型の真空管が1本やって来ました。保守用の使い残しでしょうか、箱は水濡れ跡があり半ば潰れていますが、管自体は新品のようです。これは日本のテレビ用の真空管で、子ども時代に部品取りに解体した廃棄テレビの中でも見掛けた記憶があります。これも何かの縁。あらためてしらべてみることにしました。

 子ども自体には真空管でラジオやアンプを作って遊びました。その際、廃棄テレビからいろいろ部品取りしたけど、真空管を使う事は考えなかったです。

12G-B7は大型化して 12G-B3の許容損失を増した物。箱には定価は1300円と書かれています。


 昔の感覚では真空管はそれぞれ用途が 決まっている物。特にテレビは真空管をうまく組み合わせて少ない本数で効率よく高性能を得るのが工夫のしどころだったようです。

 しかし、テレビ用の真空管の中にはラジオやオーディオに使われていた管を原型にした物もありますし、逆にテレビ出身でアンプなどに使われるようになった管もあります。だから、当時ある程度関心と知識があれば、テレビ用の管を使って遊ぶ事もできたかもしれません。
 ところが、この頃は家庭のラジオやステレオなどはトランジスタ化が進んでいて、ラジオ用など定番の真空管のバルク物はかなり安く出回っていましたから、テレビ用の真空管を無理して使う必要はありませんでした。そのためでしょうか、雑誌などを見直してもテレビ用の管使う話は(無線関係を除くと)ほとんど出て来ません。

 あらためて見直すと面白そうなテレビ用真空管がいくつかありますが、当時これらをハナから除外してしまった一番の理由はヒーター電圧。当時の一般的なテレビは、真空管のヒーター を直列にして電源100Vを加えるトランスレス(電源トランスを使わない)でした。これは軽量化と安価低減にもなりますが、狭い筐体で漏洩磁束の影響を避けるのにたいへん効果的だったと思われます。このため多くの管はヒーター電圧が6.3Vではなかったのです。(当時は3.15V管を2本直列したり、6.3Vの巻線を直列にして12.6Vにする事は思いつかなかったです。)

2019年4月22日月曜日

リアクタンス負荷

普通のオーディオアンプの設計では、便宜的に出力に接続する負荷を抵抗として扱います。しかし、実際に接続されるスピーカーは単純な抵抗ではありません。


 古い雑誌を見ていると面白い記事がありました。記事の内容は、当時登場したばかりの縦型FET(静電誘導トランジスター)の特性と現実の動作に関する考察でした。この素子は普通のトランジスタや接合型FETとは全く異なる静特性を持っていました。一見すると真空管の三極管と似ているので、ここから昔の三極管vs五極管の論議が持ち出されました。とは言っても、昔の真空管のように出力トランスを使うのではありません。真空管では不可能な逆極性のペアを使ったプッシュプル。真空管と同じように考えて良い訳はありません。あらためて見直します。

 トランジスタを使ったアンプの出力部は、最初こそトランス結合でしたが、コンデンサ結合のSEPPになり、すぐにコンプリメンタリーSEPPになり、出力コンデンサも不要のDCアンプ構成になりました。抵抗負荷なら、これらは単純に等値なのですが、実際のスピーカーを考えると、本当に等値なのだろうかという疑問が生じます。

実際のスピーカーはけっこう複雑な動きをします
  
 通常のスピーカーは細い導線を巻いたコイルを磁界の中に置いた構造です。コイルにはコーンが取り付けられています。純抵抗なら、アンプの出力電圧と電流は、電圧に関しても周波数に関しても比例する関係になるはずです。しかし、コイルですから、周波数的には直線ではありません。コイルの動きは物理的にコーンなどに抑えられるので、この分がインピーダンスに影響して来ます。動いたコーンは元に戻る時に逆に電流を生じますし、低域の共振点あたりでは振動によって生じる電流がアンプに流れ込んで来ます。

 前述の雑誌記事の要点は、現実のスピーカーを考えるならば、純抵抗から純リアクタンスの間にあるはずで、アンプの動作を考えるならば、抵抗負荷で考えたのでは不十分なのではないかという内容でした。(スピーカーの共振や外乱による電流まで考えるともっと面倒になりますが。)
 リアクタンス負荷では、電圧と電流は位相が90度ずれますから、静特性の図では直線ではなくリサージュのような円になります。記事はSEPPプッシュプルのAB級の領域とB級の領域の遷移についての考察でしたが、この問題はプッシュプルよりも(出力トランスを使用した)シングルで影響しそうです。リアクタンスが大きい場合は、静特性の図の上で抵抗負荷で引いた直線の右上や左下の領域が問題になります。

 このあたり、三極管vs五極管の論議やシングルとプッシュプルの(抵抗負荷で計測した)数値に表れない違いと何か関係がありそうです。そして、スピーカーの箱の形式やシングル/マルチの論議にも関わっているような気がします。

2019年2月16日土曜日

BGMにmp3をかける

先日作った12AU7-PPアンプに小型スピーカーを繋いで、作業中のBGMをかけています。

 しっかり聴くのではなく、だらだらと音楽を流すとなると、いちいち交換する手間のかかるCDとかは不都合。多少音質が低下するけど、この点ではパソでmp3を鳴らすのが簡単。しかし、しっかり聴くのでなければパソから送り出すほどの事は無い。スマホとかでも良さそうだけど、いちいち繋ぐのも面倒。

 あれこれ考えているうちに見つけたのは、ちょっと怪しげなmp3プレーヤーのモジュール。何かの組み込み用らしいです。USBかSDメモリーを挿入すれば、中のmp3を連続して再生するらしい。電源は5Vで、出力は直接スピーカーを繋ぐらしい。でもどうやら出力はグランド基準では無さそう。これを何とかして、アンプに繋げるかしら。安かったので、とりあえず試して見ることにしました。

基板に付いているコネクタは電源と左右のスピーカー用です

 まず、電源に5Vを接続して出力端子の電圧を測ると、どちらも+2.5V。差動出力らしい。どこかからグランド基準の出力が取れるだろうか。
 基板の載っているICを見ると、8002と書かれています。検索したら、それらしい製品の資料が出てきました。基板のパターンを追ってみると、資料の推奨回路とピン接続と合致すます。どうやら、コレでアタリらしい。(下の写真)

8002はちょっと面白い構成のICです。

 資料の解説には小電力のBTLオーディオアンプと書かれていますが、内部構成が独特です。というか、これはBTL(負荷ブリッジ接続)というのとは違うような・・・
 内部は2個のパワー・オペアンプのようです。第一ユニットは普通に正負の入力(4と3ピン)が出ていて、推奨回路では反転アンプとして使っています。第二ユニットは内部で-1倍の反転アンプとなるように構成され、この入力は第一ユニットの出力に結ばれています。IC内部で基準の1/2Vccが作られていて(2ピン)、第二ユニットの+入力は内部でここに結ばれています。推奨回路では第一ユニットの+をここに結んでいます。このように、2つのユニットは電力的には独立しているので、片側からのみ出力を取っても問題無さそうです。

 そこで、第一ユニットの出力(5ピン)から引きだして、コンデンサを通してアンプに繋いでみました。けっこういい感じで音が出ます。心配だった耳障りなノイズは問題無さそうですが・・・何か音がザラついています。基板上にフィルタらしい物が無いですから、デジタルのノイズが素通しで出ているのでしょう。そこで簡単なフィルタを付けてみることにしました。
 手もとにある使い残しの抵抗とコンデンサを組み合わせて2段のCRローパスフィルタを作りました。8002はスピーカーを鳴らせるICですから、フィルタのインピーターンスは低目にして、後続のバッファは無しで済ませました。(上の写真奥側の小基板)

 簡単なフィルタですが、それなりに効果があるようです。常用のシステムに繋いでしっかり聴くとやはりガサツな音ですが、音量控え目でぼんやり聴くならあまり支障無いぐらいで、BGM用ならじゅうぶん使えます。(片出力で使っているので電源ON/OFF時のポップノイズは出ます。)

 合板の端材でケースのような物を作りました。バネル面の電源スイッチは操作しにくいので、小型のスナップスイッチを並列に付けました。

2019年2月11日月曜日

カソードNFをかけました 6AQ5-S

キャラ的にどうしても出番が少ない6AQ5シングルアンプ。改造してしっかりとK-NFをかけます。


 改造と言っても、トランスや真空管はそのまま使って筐体もそのまま使います。発熱対策で周囲の通気を良くするため、6AQ5はサブパネルで約4mm沈めて付けてます。この部分もそのまま使います。このため外観はまったく変更無しです。

 インピーダンス確保のためにエミッタフォロワを追加しますが、これは内部のスペースに収まります。ネジ穴も元のをそのまま使いますから、改造するのは内部の回路だけです。
 トランジスタ用の電源はコンデンサ保護の分流抵抗から分けて取りましたから、電源回路は元のままです。
 接地されていた出力管カソードのケミコンは出力トランスの2次側に接続変更します。このため立ラグ板を追加して中継します。このコンデンサは容量を増すために新規購入して交換しました。
 ヒーターバイアスは出力管のカソード電位を利用した簡易な方法でしたが、カソードが出力とともに振られるようになるので、これが使えなくなります。そこでヒーターは片側接地にしました。初段のカソードがコンデンサで接地されるので支障無いと判断しました。初段のG2のバイパスは直接グランドに繋ぎました。 

カソードNFをかける改造をおこないました

 エミッタフォロワーの部分はスルーホール基板の残材を利用して作りました。トランジスタは汎用の小信号用なら何を使っても大差無いです。後で差し替えて遊ぶかもしれないのでソケットにしてあります。
 6AU6の関係の部品は元と同じように平ラグ板に載せます。値の変わる抵抗と位相補正用のコンデンサは交換しました。その他の多くは再利用ですが、回路が大幅に変わるため一旦全部外して付け直しました。このような改造が簡単なのは平ラグ配線の利点です。

 バッファ基板の組み立ても含めて、改造はゆっくりやって半日の作業。それから動作チェック。
 まず何も挿さずに電圧を確認。それから出力管を挿して、カソードNFを付けて発振しないことを確認。トランジスタを挿してバッファの動作を確認。6AU6を挿して、もう一度電圧チェック。それから信号を入れてみます。メージャーNFはかかっていませんが、けっこういい感じの音が出ます。それからNFを接続。
 あらためてスピーカーを繋いでしっかり鳴らします。やはり最初はだいぶ酷い音が出ました。出力トランスの直流磁化が変化したからでしょうか。そのまま鳴らしていると次第に落ち着いて来ました。音の傾向は元とはずいぶん違います。念のため、K-NFを外してみると、以前と同じような鳴り方に戻りますから、この違いはK-NFの効果のようです。記憶にある6V6のULシングルとも違う音です。

 低音がしっかり締まった感じに響くのは同じトランスを使っている6BX7シングルと似た感じです。全体に明るい感じは元と同様ですが、中域も緩さが無くなり、特にボーカルがしっかり聞こえる感じで、これは小音量でも同じ傾向です。思い切って実行した改造ですが、予想以上に効果がありました。

カソードNFをかける方法 6AQ5-S

2015年に製作した6AQ5シングルアンプ。他のアンプと比べると、キャラクタ的にいまひとつ活躍できていません。

 このアンプでは6AQ5を素のビーム管として使用しました。たいへんすっきり聴きやすい音になりましたが、同じ出力トランスを使った6BX7シングルとは対照的。これがビーム管シングルの音なのかもしれませんが、キャラ的には私の好みとは異なります。そしてスピーカーとの相性が出やすい感じで、私室の癖の悪いスピーカ相手では活躍させるのは難しい。
 オーディオアンプで6AQ5シングルの音は覚えがありませんが、原型と言われる6V6は、昔に知人の所で聴いたUL接続シングルアンプの音が印象に残っています。6AQ5もUL接続にしてやれば好ましい音になるのかもしれません。しかしそれにはULタップのある出力トランスが必要です。

 あれこれ考えた結果、もう一度カソードNFを試して見ることにしました。

手もとに使い残った小信号用トランジスタ

 このアンプに使用しているトランスにはNF巻線はありません。2次側が出力管のカソードと同相になるようにするには1次側か2次側のどちらかの接続を逆にしなければなりません。

 巻線を逆接続するのは3段でNFをかけるアンプでは普通におこなう手法です。増幅が3段だと(反転×反転×反転)=逆相ですから、出力トランスを逆接続にして初段のカソードと位相を合わせます。しかし2段アンプでは巻線を逆接続すると初段のカソードに帰還することができなくなります。

 解決策のひとつは、半導体で1段追加するか6AU6を双3極管の2段に換えるなど、3段アンプにしてしまう事。しかしこれは簡単では済まなそう。

 2段増幅の出力トランスを逆接続にすると、全体では反転増幅回路になります。そこで素直にNFをカソードではなくグリッドに返すことにします。でも、そうすると入力インピーダンスが低くなってしまい、オーディオアンプとしては使いにくなります。これを避けるためには前にバッファを置けばよいです。1倍のバッファなら、トランジスタのエミッタフォロワーが簡単です。この部分の電源は、真空管の電源から抵抗で落として作れます。

 この方法なら主要部品はそのまま使えます。筐体もそのまま使えます。期待するような効果が得られなければ元に戻すのも可能です。

 

カソードNFをかける改造 6AQ5-S

5極管と3極管の優劣。特性的な事もあり、製造上の事もある。そしてなにより、使いやすく安い3極管があるのか。

 思い切った方法としては、5極管の3極管接続というのがあります。静特性の上では3極管と同じになりますが、たいがいは大幅な感度低下あるいは出力低下となります。

 UL接続は5結と3結の中間のように説明されます。良いとこ取りという見方もあり、中途半端という意見もあります。G2はその名のようにグリッドであって制御能力がありますから、ここへ帰還しているという考え方が正しいように思います。出力トランスがからんでいるので、実際の動作は解析困難ですが、たいがいは5結とも3結とも異なる雰囲気の音になります。

 6AQ5は背丈は12BH7と同じですが細身です。


 出力トランスがらみで出力段の特性を改善するアイディアは他にもあります。その中で良く知られてるのがカソードNF。トランスの2次側から出力管のカソードに帰還します。このための巻き線を持った出力トランスもあります。

 カソードに戻してNFになるためには、出力管のカソードと同相の電圧が必要です。プッシュプルならば、2次側の4Ωが16Ωの中点である事を利用する方法もありますが、普通のシングル用のトランスを普通に使えば、2次側の出力はプレートと同相ですから、カソードに対しては逆相になります。このためシングルアンプの場合はNF用巻線を持ったトランスを使用します。

 6BM8シングルアンプに使用したトランスは2次側に16Ω端子がありました。製作の際にこれを利用してカソードNFをかける方法を思いつきました、出力トランス全体を上下逆にして、8Ω端子を接地すると16Ω端子には出力と逆相の電圧が(少し)出ます。これを利用(逆相の逆相は同相)してNFをかけたところ、ある程度の効果が確認できました。(最終的には、このアンプは当初の構想どおりUL接続にしました。)
 これをもとに、キャラクタ的に使いにくいと感じていた6AQ5シングルアンプの音質改善を試みました。これはかなり無理やりな方法だったためか、多少改善した面もありましたが、全体としては失敗でした。結局短期間で元に戻してしまいました。

 しかし、カソードNF自体には魅かれるものがあります。あらためて見直しているうちに、出力トランスは普通の使い方をして、きちんとカソードNFをかける方法を思いつきました。

2019年2月7日木曜日

小型密閉式スピーカーを鳴らす

強力なユニットを極小の密閉箱に入れると、フツウではない鳴り方をします。しかしこのスピーカーはアンプを選びます。

 [製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]

 常識はずれのスピーカー。当然のように低音は絶対的に不足します。しかし(それほど大きくない音で鳴らす限り)ダラダラとレベルは低下しながらも、ずいぶん低い音までしっかり鳴っているのが判ります。ただ、このスピーカーは駆動する側から見るとたいへんしんどいはずです。

 そこで、あれこれ揃った私室のアンプに加えて居室用のアンプなども動員して、繋ぎ替えて鳴らしてみました。その結果、やはりたいへんアンプを選ぶことが判りました。プッシュプルであればそれほど問題無いのですが、どちらかというと3極管が適していて、シングルは3極管でも5極管でも全然ダメでした。いずれもNFがかかっていて、数値的なダンピングファクタはそこそこ低いはずなのですが。(おそらくNFの少ないアンプだと破綻する。)

 低音は物足りないですが、小音量であれば、自然で聞きやすい音です。そして、レベルが下がる低域をイコライザで少し持ち上げると、小さなスピーカーとは思えない音になります。
 ほとんどバッフルが無い形状のためでしょうか、このスピーカーは指向性も奇妙です。軸をはずれても音に違いが少ないです。これは片隅に置いてBGM用に鳴らすには好都合です。

12AU7-PPアンプには 低域を持ち上げるスイッチを付けました

 ほとんどネタで作った変則的なスピーカーと、ネタを固めた小出力アンプの計画が交錯しました。まず3極管のプッシュプルというのはこの性悪なスピーカーには似合いの相手。12AU7は、特性的には12BH7Aと6SN7の中間ぐらい。机上BGM用ならば出力が小ささくても問題無さそう。ヒーター電力が小さく、ドライブにオペアンプを使うので全体の消費電力は小さい。長時間連続で使うBGM用には好都合。
 そこで、このアンプには「バスブースト」機能を付けることにしました。これは昔あったラウドネスとは違って、小型のスピーカーでカットオフ付近以下の低音が不足するのを電気的に補うとことを意図したものです。メインの負帰還ループにコンデンサを挟んで低域の帰還量を減らす簡単な方式にしました。

 製作したアンプにスピーカーを繋いで鳴らし、バスブーストを入り切りしてみます。普通にBGMをかけている状態ではあまり違いが判りませんが、意識して聴けばベースラインがしっかり辿れるようになります。意図したとおりの効果が出ています。

2019年1月31日木曜日

小型密閉式スピーカーという物

先日作った12AU7-PP机上用アンプに関連して、小型のスピーカーの話を。


 ずいぶん前に作ったスピーカーの事を想いだしたのは去年の今ころ、。当時の知人の発案に従って作った物で、普通のスピーカーボックスの設計から見ると全くの異端。

 低音をきちんと出すにはある程度以上の大きさの板に付けるか箱に入れる必要があります。平面の板は、大きくなければ背面の振動が回り込みます。遮音するために背面を閉じると、箱の中の空気がバネのように振舞って、スピーカーの動きに影響します。
 バスレフは、背面から出る音を共振を利用して位相反転して出すという発想です。これによって低音を増強して、小型の箱でも低音を出せるのですが、それより低い音が急激にカットされたような感じになります。また、小容量の箱では特有の癖のある音になり、音像がぼやけて隠った音になりがちで、個人的にはあまり好みではありません。

100φの塩ビ管の曲がりとキャップ。使用ユニットは8cm。


 彼の発案は『小型で強力なユニットをごく小容量の箱に入れて、その中に綿などを空所が無いほどに詰める』という物。これでは当然のように低音は絶対的に不足します。しかし(それほど大きくない音で鳴らす限り)ダラダラとレベルは低下しながらも、ずいぶん低い音までしっかり鳴っているように聞こえるのです。

 どうやら、このような聞こえ方をするにはいくつか条件がある事がわかりました。
  • 大きさの割に大出力の、磁気回路が強力なユニットを使う。
  • 内容積が極端に小さくなければならない。箱の共振点はスピーカ自体よりかなり高いところ。
  • 箱内にほとんど空所が無いぐらいに綿など軽い物を入れる。(吸音よりも空気バネとしての共振を鈍らせる、ダンパのように働くのではないかと思われます。)
  • これらと関係するので、使用するユニットが大口径ではうまく行かない。
  • ユニットはしっかり取り付けて、空気漏れしないように隙間を塞ぐ。
  • 箱自体が丈夫で振動しにくくなければならない。
ネットであれこれ見ているうちに、これに合った感じのユニットが安く出ているのを見つけ、昨年春に東京へ出かけた際に購入して帰りました。これを使っていろいろ検証した後、塩ビ管を使用してスピーカーに仕立てました。

 昔に実験した時の物よりひとまわり大きいですが、出てくる音の傾向は同じ感じになりました。全体には完全にハイ寄りなのですが、中域からなだらかに下がってゆき、レベルは低いものの重低音まで綺麗に出ています。
 全体に制動がかかる感じなのでしょうか、スピーカの能率は低くなります。それでも(大音量が必要ではないので)ボリウムのツマミを少し余分に回せばカバーできる程度。
 一方、このスピーカーは逆起電力が大きくインピーダンスがでこぼこなはずです。おそらくこのためでしょうか、たいへんアンプを選ぶことが判りました。プッシュプルであればそれほど問題無いのですが、どちらかというと3極管が適していて、シングルは3極管でも5極管でも全然ダメでした。いずれもNFがかかっていて、数値的なダンピングファクタはそこそこ低いはずなのですが。(おそらくNFの少ないアンプだと破綻するでしょう。)

 妙に音の粒立ちが良く、ステレオにするときっちり分離します。ほとんどバッフルが無い形状のためでしょうか、スピーカーの軸をはずれても音に違いが少ないです。音量を上げすぎなければ、たいへんすっきり聴きやすい音です。 そして、レベルが下がる低域をイコライザで少し持ち上げると、小さなスピーカーとは思えない音になります。

2019年1月11日金曜日

12AU7-PP 上カバーを作る

机上でパソコン使用時のBGM用に使います。真空管がむき出しではまずいです。

 [製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]

 棚の中に収まっているアンプと違って不用意に何かがあたる危険が多いです。上部のカバーは必須です。置き場所を考慮すると長手を奥行き方向にして、スイッチとボリウムが前に付きます。少ないとは言え、真空管の発熱がありますから、上蓋に通気穴が無いといけません。この条件でケースを探したのですが、良い物がありませんでした。そこで、汎用のアルミシャシーにパネルを付けて、カバーを製作して被せることにしました。

 全体の発熱が多くないので、適度の通気が確保できれば、ボンネットケースのような物でなくても済みます。昔のラジオやテレビは木製のキャビネットでした。このイメージで、上部カバーは合板を接着して作り、ニスで塗りました。側面に通気のための穴を開けました。 背面上部は開いています。底面はアルミのパンチングです。

合板を張り合わせて作りました
 
 ボリウムとスイッチを付ける前パネルは残材のカラーアルミ板で作りました。文字入れは、透明ビニルシートにパソコンで裏刷りした物を貼り付けました。裏刷りなので手で擦れて消えることはありません。 ツマミは、ずいぶん前に買い込んであった処分品。やっと使ってやれました。

2019年1月9日水曜日

試運転 12AU7-PP

ドライバ段の試験をするには電源が必要。電源部を作るためにシャシーなどを加工して。結局ほとんどの作業が進んでしまいました。

[製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]

 置き場所を考えたら、奥行きを長手方向に使うことになります。縦横の大きさを基準に選んだシャシーは、深さが5cmもあります。そこでこれを利用して、シャシーの上下に部品を盛り分けることにしました。上にカバーを被せて前面にパネルを付けますから、上面の部品に触れてしまう心配はありません。

 出力トランスも電源トランスもバンド型で、特に電源トランスはカバー無しです。ハム防止のためには鉄心の軸方向を直交させたいです。それには電源トランスを横倒しに取り付けるのが良い。そのためにL字型の金具を作る。
  通気の点で、真空管はサブパネルに付けることにしました。シャシーの深さが大きいのでかなり深く沈めることになり、これに合わせるためにドライバ段の基板も高いスペーサを介して取り付けます。
 スイッチは前パネルに付けるので、パネルの加工が必要です。スイッチの位置がシャシーと中途半端に重なるので、その部分はシャシーを切り欠きます。

 結局、筐体はずいぶん複雑な構造になりました。
 
一応回路部分は完成 シャシー下面
  ヒーターとオペアンプ用と、真空管用に、電源トランスが2個に分かれています。シャシー自体をシールドに使うように、上下で高圧と低圧に分けます。
 ドライバに関係する部分はすべてシャシー下面で完結しています。動作チェックをするには、ここの部分を完成さるのが早道。しかしそれには筐体加工を完了させておかなきゃ。

一応回路部分は完成 シャシー上面
  ここまで来ると、出力段関係を作ればほとんど完成してしまいます。高圧側の電源回路は簡単です。これに出力トランスの1次側を通してプレートに繋ぐだけ。この配線の引き回しは、シャシー自体をシールドのように使って、上面を這わせています。

 入力に発振機の信号を入れて、出力波形を確認。それらしい波形は出たけれど、NFをかけようとすると・・・何か変。ていねいにチェックすると、左右チャンネルの配線の一部を取り違えるという恥ずかしいミスでした。修正してあらためてチェック。
 問題無さそうなので、出力にスピーカを繋いでみると、ちゃんとピーと音が出ます。そこで今度は音楽を入力に。予想以上にすっきり聴きやすい音です。高音はけっこう硬く鳴り、低音はゆったり伸びやかに響きます。

 買い忘れて、代用品でしのいでる部品が数個。これを正規の部品に交換して、上部カバーを製作したら完成です。このまましばらく慣熟運転です。

2019年1月7日月曜日

位相反転回路のチェック 12AU7-PP

ドライバ段の試験をするには、電源が必要。電源部を作るにはシャシー加工が必要・・・
 
 電源は仮組でも良かったのだけど、どうせ作らなきゃいけない物。スボラして後で手戻りするのは得にならない。この際だから、ちゃんと作っておこう。
 工程を途中で止めておくのは無駄だし、後から加工する部分が多ければそれだけ手間が増える。最低シャシーの背面の加工は必要。トランスを付ける金具を作って、トランスの位置を決めなければ。スイッチを付けるんだから、前パネルも作ってしまおう。
 ここまで進めると真空管の位置が決まってきます。切削屑が散りますから、金属加工はまとめてやるのが吉です。あれこれ考えて、結局筐体関係の加工はすべてやってしまう事になりました。

低圧電源とドライバ段までを配線した状態


 スイッチはパネルの前側からの取り付けです。だからスイッチに配線してから取り付ける方が楽です。ボリウムもパネルと一緒に取り付けますから、先に配線しておくのが楽です。 結局、シャシー内側に関係した配線はほんんどを済ませてしまいました。

 まずは、電源の確認。なんと、マイナスの電圧が出ていない。3端子レギギユレータまわりの問題かと思ったのですが、古い買い置きのダイオードが1個不良でした。未使用だったのですが。これを交換したら、あとは問題なし。オペアンプを差し込んで、いちばん心配だったオフセット電圧の確認。数個で差し替えてチェックしたけれど、いずれも支障無い程度でした。

位相反転回路の出力を確認

 そこで入力に発振器を、出力にシンクロを繋いで、出力のレベルと波形の確認。ちゃんと逆位相で同じレベルの信号が出ています。信号レベルを上げて振幅も確認しました。オペアンプ使った位相反転回路はちゃんと動作しています。


2019年1月2日水曜日

オペアンプで位相反転回路 12AU7-PP

 部品がだいたい揃った(はずの)12AU7-PPアンプ。ぼちぼち製作開始。

 おそらく私自身の最後の新規製作になる物。初心に返ってゆっくりやってます。まずは、オペアンプによる位相反転回路の部分。これを盛りつける基板は、用途廃止したデジタル物の基板の余りの部分を活用。

手持ちの余剰部品の活用のため、彩りが賑やかです

 オペアンプ以外にも、今回は特に手もとの余剰部品の使用を意識しています。ここで使われなければ廃棄される可能性が高い物たち。

 抵抗は、いわゆる「無駄な抵抗」をなるべく多く使えるように値を決めました。そのためメーカーなどまちまちです。コンデンサも、けっこう昔に取り込んだ物が混じってます。オペアンプを差し替えて遊べるようにソケットにしました。

 抵抗は立実装にしました。デジタル物の手法で、部品の足は基板面から少し出して切断し、導線で繋ぎました。ここには余り物のラッピングワイヤーを剥いて利用。配線は無理に裏面で引き回さずに表にジャンパを飛ばしました。

 このあと電源回路を作って、ちゃんと動作するか実験しなきゃ。

[製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]