2019年5月19日日曜日

12G-B3/B7 オーディオアンプにする (2)

多くの家庭用テレビで使われた12G-B7。子ども時代には完全にスルーしてたけど、あらためてアンプにする事にしました。

 しらべてみると、真空管マニュアルに12G-B3の3結の特性図が載っていました。原型と言われる25E5も載っています。見比べると微妙に違う感じもしますが、設計上問題になるほどの差ではありません。おそらく12G-B7も同じような感じでしょう。ここから設計を始めます。25E5のSPICEのデータがありましたから、これも併用してチェックすることにします。

 全体の発熱量を抑える必要もあるので、定格に対して余裕を見てプレート損失を8W程度で考えます。これを基にB電圧を決めます。
 400Ω負荷のOTLアンプにも使われた管です。3結にしても低電圧で大電流が流れます。 P-K間約150Vで60mmAほど。パイアスが約-22Vになります。このあたりの動作で使える出力トランスを探すと、東栄変成器と春日無線の製品にインピーダンス2KΩの物がありました。重畳電流も許容範囲内です。 (子ども時代にこの管でアンプを作ろうとした場合、適した出力トランスを入手が難しかったと思います。)
 電源トランスは、ヒーターの12.6Vは6.3Vの巻き線2つを直列にすれば済みますが、B電圧が低くて電流が大きい物が必要です。12AU7-PPアンプの要領で絶縁トランスを利用することもできそうです。 特注という手もありますが、探すと(容量が少し過大ですが)使える既製品がありました。

水平偏向出力管 12G-B7, 12G-B3, 25E5

 ドライバはなるべくシンプルな回路にします。出力管が大きいのでシャシー上にはほとんど余裕がありませんから、半導体で構成します。ヒーターが無いので発熱を抑える意味でも効果的です。6Z-P1シングルアンプと同様にJ-FETと高耐圧のトランジスタのカスコードを使うことを考えます。

 バイアスが深いという事は入力に大きな振幅が要るという事です。そして、その分感度が低いという事にもなります。出力段のゲインは約1/4倍。適量のNFをかけて、私室用アンプ基準の仕上がりゲイン約15倍にするには、ドライバの裸ゲインは200倍以上要ります。これを低いB電圧で確保しなければなりません。そのためには電流を少な目にして負荷抵抗を大きくするのですが、出力管を3結で使うので(G2の遮蔽効果が効かないので)入力容量が大きくなります。これをカバーするため、エミッタフォロワを挟むことにします。(子ども時代ならば真空管で作ることになる訳で、これはかなり苦しかったと思います。)

 3極管接続する場合、教科書的にはG2をそのままプレートに繋ぐのですが、安全のため直列に抵抗を入れます。大電流の流れる5極管やビーム管では、寄生振動が発生する事があり、G2を焼損するトラブルの原因に挙げられます。直列抵抗はこれを防止するのに有効らしいです。おそらくこれはG2のインピーダンスを上げる効果でしょう。この点では、3結の場合こそ抵抗を入るべきだと思います。6R-A8や6C-A10などは異常発振や異常発熱が起きやすいと言われましたが、これらがビーム管を内部で3結にした構 造であることと関係がありそうです。

 私室用の小型アンプの一員として作るのですから、前面と背面を同じに揃えます。これまでの製作では手持ちを極力活用して来ましたが、すでにほとんど使いきっているので新規購入する物が多くなりそうです。大阪日本橋で揃わなければ秋葉原あるいは通販で購入することになります。
 おそらく難関となるのは、プレートキャップと電源のコンデンサ。これらは外観にも関わるので悩ましいです。

2019年5月18日土曜日

12G-B3/B7 オーディオアンプにする (1)

子ども時代、手近にあったけど手を出すことは無かった真空管。今さらだけどアンプにしてみようと思います。

 縁でやって来た真空管は12G-B7。部品取りに解体した廃品テレビの中で見た記憶があります。当時はこれを使おうとは思いませんでしたが、もしこれを使ったとするとどんなオーディオアンプになったでしょうか。

 あらためて調べてみると、6.3V管の6G-B3A/B7のオーディオ用としての使用例がいくつか出て来ました。そのままピーム管のプッシュプルで使うと、300V程度のB電圧で40W級のアンプになるようです。しかし規模的に子どもの手に負える物では無さそうですし、このような用途ならば6CA7や6L6の方が使いやすそうです。雑誌などの製作記事には400Ωスピーカー用のSEPPアンプがいくつかありましたが、真似してジャンク部品で作れるような物ではありません。
 12G-B3/B7は、低い電圧で大電流を流すように作られた管で、ビーム管としての特性は綺麗ではありません。この点からはシングルアンプは不適当な気がします。ところが、規格表にある3結の時の特性図はたいへん素直です。有名な2A3には及ばなくても、現代的には使いやすい感じです。どうやら3結で低内部抵抗の3極管として使う方が面白そうです。

 シングルで使うならメーカーや使用歴が違っても支障無いです。ステレオにするので相方が最低1本、継続的に使うなら数本は必要です。テレビで使われて多少くたびれた管でも良ので、安い出物があるか探して見ました。
 真空管テレビが終わると保守用に確保されていた真空管はあちこちで投げ売り状態になりました。その中には12G-B3やB7もありました。その後作例がいくつか紹介されたこともあってか、かなり価格が上がったと聞いていました。しかしあらためて探して見ると、開封品(ほとんど使っていない?)の12B-B3と12G-B7がずいぶん安価に出ているのを見つけました。

12G-B3 と 12G-B7 いろいろ


 小ネタ半分なので、あれこれ繋ぎ替えて聴き比べできる私室用のアンプにします。同じシャシーを使って外観を揃えます。仕上がりゲインも揃えます。
 ドライバは、当時のテレビ管の仲間から選ぶとすると、中間周波増幅に多く使われた3CB6あたりでしょうか。しかし今回は大きさと総発熱量の関係から半導体を使います。6Z-P1シングルアンプで使用した手法で、J-FETとトランジスタをカスコードにすると5極管に似た特性になります。

 私室用のアンプは棚の中で使用するので発熱が大きすぎると困ります。12G-B3の3結の許容損失は12Wあるいは13Wという説がありますが、規格上は原型の25E5と同じ10Wです。ここからさらに軽減して約8Wで考えます。しかしテレビの水平偏向管なのでヒーター電力が約8Wもあります。このため管2本分で合計32W程度。電流が大きくバイアス電圧が大きい管です。これを自己バイアスで使うのでカソード抵抗の発熱が大きくなります。全体では常用している12BH7A-PPアンプよりだいぶ発熱が大きいことになりますが、この程度なら、真夏でなければそれほど困ることは無いと思います。

2019年5月12日日曜日

ビーム管

2極の真空管に格子を加えて制御機能を持たせた3極管。さらに極を追加した4極管。しかし4極管は優れた特徴を持つかわり、欠点もありました。

 大型の出力管はビーム管が多いです。シンポル図ではSGとプレートの間に翼のような物が描かれます。これはビーム形成板と呼ばれますが、これがビームを作っている訳では無さそうです。

 4極管の説明について、プレートとグリッドの間にもうひとつグリッドを追加したと説明される事が昔から多いと思います。確かに高周波増幅や小信号増幅で(G2電圧がプレートよりかなり低い動作で)は、静電シールド効果が目立つのでスクリーングリッド(:遮蔽格子)という名が合うのかもしれません。一方、プレート電圧が低い領域ではG2が積極的にカソードの電子を引っ張っているので、加速電極だという解説もあります。この場合もプレートの電圧の変化を隠しているという意味の説明が付きます。
 しかし実態はかなり違うのではないでしょうか。特性の点で効いてくるのはプレートの位置や大きさではなく、G2の位置とその形状ですから、3極管のプレートを透け透けにして、その外側に第二のプレート置いたと考えるべきなのではないでしょうか。そう考えると、4極管は3極管のカスコード接続(上側は中途半端なA2級動作をしている)と見なせないでしょうか。

 4極管の問題のひとつはG2に流れ込んでしまう電流。G2の電圧がプレートより高くなる区間が広くなる大振幅ほど影響が大きくなります。これを軽減する工夫のひとつがグリッドの目合わせ。これにより、G1で絞られた電子流がそのまま勢いよく直進してプレートに当たる。

6L6-GC と 12G-B7 遠縁の親戚関係

 ビーム管の要はグリッドの目合わせ。この電子流が停滞せずにプレートに流れ込むには、G2とプレートの間隔も重要です。しかしグリッド支柱の付近はビームが整わず、プレートとの間隔も取れません。ビーム形成板はこの部分を隠しているように見えます。ビーム管はグリッドは微妙ですが、プレートはかなり自由が利くようです。

 ビーム管の古典といわれるのが6L6。12G-B3/B7系のライバルにあたる6BQ6の元を遡るとここに至るらしいです。メタル管からガラス管になって6L6-Gとなり、プレート引き出しを頂部に移して送信管になったのが807。これそのものもテレビの水平偏向にも使われたらしいですが、初期の専用管の6BG6はパルス回路用に耐圧を上げ電流を増した物のようです。

 この6BQ6のプレートを拡大して容量を増したのが6DQ6で、これに習って12G-B3のプレートを拡大した物が12G-B7です。一方、この過程を追って6L6の特性はそのままに容量を大きくして生まれたのが6L6-GCらしいです。だから6L6-GCの外観は水平偏向管とも少し似ています。
 製造時期は少し違いますが、同じ東芝製を並べてみました。プレートは6L6-GCの方が少し長く、12G-B7の方が少し厚いです。12G-B7のカソードが大きいのが目立つほかは、内部の構造はよく似ています。

2019年5月2日木曜日

水平偏向出力管 12G-B7と12G-B3


縁でやって来た12G-B7。これはテレビの水平偏向出力管。昔のテレビで映像が映る部分はブラウン管と呼ばれる巨大な真空管。

 プラウン管は、おおまかに言えば円錐と四角錐の中間のような形。底面を手前にして横倒しになっています。奥側にある頂点から手前のアノードへ電子が飛んでそこに塗られた蛍光体に当たると発光する。この電子の流れを上下左右に振り回して映像を描く。テレビのブラウン管では、電磁石を使って(フレミングの法則)電子の流れを振り回していました。これが偏向。日米のテレビでは、毎秒30枚の画像を送って来ますが、1画面を1ラインずらして2回で描くので、垂直の動きは60Hz。1画面は水平の線525本で描かれるので、水平の動きは約15kになります。音声の帯域の上下ぎりぎりの所にうまく設定されているように思います。
 強力な電磁石を駆動するのですから、偏向管が扱う電力はどうしても大きくなります。特に高い周波数で大振幅が必要な水平偏向はたいへんです。さらにこの回路はブラウン管の電子流となる高圧発生も兼ねています。そのため、ここには大型のビーム管が使われました。

日本式型番の真空管 大きさは似ていますが能力は4倍ほど違います

 12G-B3はテレビの水平偏向出力用の真空管です。型番の示すように日本独自の規格の真空管です。家庭用のテレビには日本的な事情に合わせて作られた日本独自の真空管がいろいろ使われていました。
 初期の水平偏向出力には6BQ6など米国系の系統の管が使われたようです。欧州系の真空管を作っていた松下はPL36/25E5を製造しましたが、これは特殊な構造のフレートを持っていて、低い電圧で大電流が流せます。これは電源電圧が低い日本には好都合。しかし25E5は欧州のトランスレス管でヒーターが300mA。日本向きの600mA管が欲しい・・・

 そこで東芝が作ったのが12G-B3。25E5のヒーターを100V用に600mAに変更したような管。12G-B3は、昭和30年代を通して日本の各社のテレビに使用され、多くのメーカーが大量に生産しました。
 特性図では原型の25E5と微妙に違いがありますが、偏向用としては同特性と言われます。定格も少し違いますが、当時の定格の考え方はかなりあいまいだったので、実質的には同等のようです。どちらも長期間に少しづつ改良され、製造時期やメーカーによって構造に違いがあり、実際の定格は途中で少し大きくなっているという話もあります。
 その後、テレビの広角化と大画面化にともなってより大きな偏向電力が必要になり、12G-B3をひとまわり大型化した12G-B7が登場しました。管が太くなりプレートも大型になっていますが、(偏向用としては)特性を同じに揃えてあり、修理の際にそのまま差し替えて長寿命になるということでした。

 この系統の管はテレビではスニペッツが出やすいという欠点があったようです。特殊なプレート構造の関係か、プレート電圧の低い領域の特性が悪いのが原因らしいです。これはビーム管としてシングルアンプに使う場合には注意が要りそうです。