2023年12月24日日曜日

トランジスタ・シングルアンプへの考察 その3

  私自身はこの記事に取り上げるようなアンプをは製作するつもりはありません。参考資料として掲載します。 

 ある所で相談を受けたのはだいぶ前。その後もいくつか思う事があり、関連した内容をここに書きます。

[ ここまでの話1 ]  [ ここまでの話2 ]

 トランジスタであっても真空管であっても、普通のスピーカーを鳴らすシングルアンプを作るにはトランスが必要。でも、トランジスタ用として販売されたシングル用のトランスは無い様子。そうなると、真空管用のシングル用トランスを使用することを考えなければなりません。

 一般的な小出力用の真空管は100~250Vの電源で数十mA流して使います。だから小型の真空管用のトランスは数KΩから十数KΩのインピーダンスです。この動作では、真空管のプレートにはOFF側の区間で電源より高い電圧がかかります。真空管のピーク耐圧はかなり余裕があり、これで支障が出る事はまずありません。ところがトランジスタは電圧の制限が厳しく短時間でも超えると破損に繋がります。だから真空管をそのままトランジスタに置き換えるのは難しいです。このピーク電圧は負荷や信号の波形によるので、最悪は3倍ぐらいを見込んでおきたいです。一般的な電力増幅用のトランジスタでは耐圧の高目の品種で120V程度。電源電圧を真空管よりかなり低くしなければなりません。
 電源電圧を40Vとしてみます。小出力用のシングル用トランスでは3KΩという物が比較的安価に入手可能です。これを使うと出力は0.2W程になります。これより出力を得ようとすると、電流を増さねばならず、それにはもっとインピーダンスの低い(数百Ω程度)トランスが要ります。


  市販のトランスを調べてみると、インピーダンスが600Ωや400Ωという物がいくつかありますが、このうち小型の物は重畳電流が書かれていないので、おそらくマッチングトランスでしょう。

 思いついたのは、タップの出ているトランスの巻き線を逆向きに使う事。一般的な0-3K-5k-8KΩのトランスを考えてみます。理想トランスとすると、各巻き線の巻き数は8Ωに対して54.8倍、70.1倍、83.7倍です。タップ間の巻き数は3-5K間が15.3倍、5-7K間が13.6倍、3-7K間が28.9倍。つまり3-5K間を使えば234Ω、5-7K間を使えば185Ω、3-7K間を使えば835Ωのインピーダンスになるはず。このぐらいのインピーダンスなら、20V程度の電源電圧で実用十分な出力が得られます。変則的な使い方ですが、磁気的には問題ないはずです。電流的にも公称の重畳電流内なら問題無く、多少越えても大丈夫と思います。高域特性はいくらか変わるでしょう。

 トランジスタでシングルアンプをつくるなら、この方向が良さそうに思います。

2023年12月23日土曜日

トランジスタ・シングルアンプへの考察 その2

 私自身はこの記事に取り上げるようなアンプをは製作するつもりはありません。参考資料として掲載します。

 ある所で相談を受けたのはだいぶ前。その後もいくつか思う事があり、関連した内容をここに書きます。

[ ここまでの話 ]

 ふつうのスピーカーをふつうに駆動するには、押すと引くの双方向に電流を流す必要がある。これをシングルアンプで果たすには、パワー素子の反対側をどうすれば良いのか。電圧増幅回路CR結合と違ってRで吊るのではダメです。ここで有効に働くのはトランス(あるいはチョークコイル)。リアクタンスによってON期間に蓄えたエネルギーでOFFに向かう期間を駆動する。トランスであればインピーダンスの変換も同時におこなえます。真空管のシングルアンプはこのようにトランスによって成立してるのです。
 そうなると、トランジスタのシングルアンプもトランスを使うのが確実ではないか。トランジスタと真空管の比較という点でも公平な気がします。問題はトランジスタに適したシングル用のトランスがあるのか。

 トランジスタ用のトランスで昔のアマチュア製作の定番だったのが山水のSTシリーズ。当時のカタログを見ると出力トランスはすべてプッシュプル用でシングル用はありません。
 実用オーディオ製品では無くても、トランジスタのシングルでスピーカーを駆動する回路は確かにあったはずです。2石レフレックスラジオとか。という事で手許の初歩向け雑誌を見ると、なんと、どの回路もプッシュプル用のトランスをそのまま(両端を)使っています。プッシュプル用のトランスは直流を流すようには作られていません。このような使い方ではコアが磁化されて飽和するか、そうでなくとも特性はメタメタのはず。無いから仕方ない、あるいは元々音質特性は問題外という事でしょう。

 現行の既製品で、シングル用の、コイルに直流電流を流す前提で作られているトランスは真空管用だけです。で、これはトランジスタで使えるのだろうか。

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2023年12月22日金曜日

トランジスタ・シングルアンプへの考察 その1

私自身はこの記事に取り上げるようなアンプをは製作するつもりはありません。参考資料として掲載します。

 ある所で相談を受けたのはだいぶ前。その後もいくつか思う事があり、関連した内容をここに書きます。

 真空管アンプにはシングルとプッシュプルが普通に存在し、近年作られているものはシングルアンプが多いように見えます。揃った真空管が得にくい最近の事情もありますし、シングルの方がそれぞれの管の特徴が出やすいという考えもあるようです。一方、トランジスタを使ったアンプは昔からほとんどがプッシュプルでした。というか、実用向きのトランジスタのアンプでシングルという物を見た事がありません。初期のトランジスタではある程度の出力を得るにはプッシュプルにする必要があったとか、トランジスタは高効率省電力がウリなのでプッシュプルは必然とか、商業的な理由はすぐに思い付きます。しかし、トランジスタと真空管の音を論じる中でもトランジスタ・シングルアンプが登場した記憶はありません。

 あらためてトランジスタでシングルアンプを真面目に作る事を考えます。シングルアンプは当然A級動作で無信号時に大きく発熱します。トランジスタは高温に弱く温度変化に敏感です。しかし小出力のアンプであれば、ある程度放熱と温度補償に配慮すれば扱い困難という事は無いでしょう。6AR5とか6BM8とかシングルで出力数Wの管と比較する物を今作るなら、TO-220ぐらいのトランジスタでも十分なはずです。

 手許の余剰の部品をかきまわすとTO-220のトランジスタがいくつか出て来ました。このようなトランジスタはどにでもあるはずです。これらは小さな放熱器でも数Wは取れます。電流はそこそこ取れますが耐圧は数十V程度。問題はこれでどうやってスピーカーを駆動するか。

 プッシュプルならトランスレスもあるのですが、真空管のシングルアンプには出力トランスがつきものです。実はシングルアンプのトランスは、プッシュプルと違って、インピーダンスの整合以上に重要な働きをしているのです。
 現在一般的なダイナミックスピーカーのコイルには交流が流れ、コイルの磁界が反転する事でコーンを前後に動かしています。コーンを押す時と引く時の両方で対称に電流を流す必要があります。この点でダイナミックスピーカー自体がプッシュプルな素子なのです。したがってプッシュプルアンプとは相性が良いのです。
 問題はシングルアンプ。プレート(コレクタ)へ引くにしろカソード(エミッタ)から流すにしろ、片側しか駆動できない。スピーカーは電力素子ですし、コーンの動きに伴ってコイルには電流が流れます。ダンピングの問題です。ここでトランスのLが効いてきます。真空管(トランジスタ)がOFFに向かう時に、ON 時にコイルを磁化したエネルギーによって電流が流されます。だからこれはチョークコイルでも良いけれど、普通のCR結合回路のように抵抗で吊るのではダメなのです。所謂アクティブ負荷という物がありますが、この方向に進むとSRPPに至ってしまいシングルとは違って来ます。 

 つまり、トランジスタでも真空管でも、シングルアンプならOFF側で積極的に電流を流す物が要る。そのためのシンプルな方法がリアクタンス。つまりトランスかチョークを直列に入れる。(昔のマグネチックスピーカーは、直流を重畳させて磁化させるように作られていて大きなL性を持ってます。だからトランス無しで繋いで良いのです。)

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