2016年8月17日水曜日

出力トランス付き トランジスタアンプ

過去の遺物整理の中で発掘したサンスイのSTトランス。これを使ってランジスタのアンプを作ることにしました。

 長く中断していた電子工作を再開するきっかけは、懸案だった6CA7-PPアンプの製作。このアンプの設計の際には、ドライバ部については、3定数から求める略算法と特性図を基に図上に線を引くという昔からの方法に加えて、パソコンのSPICE(電子回路シミュレータ)を試しました。


 このSPICEは、半導体メーカーが無料で提供してくれている物です。ネットで拾えた真空管のパラメータを組み込んだので真空管の回路も設計できていますが、本来はトランジスタ回路の設計のための物です。パラメータがどのぐらい実際の特性を再現しているか不明ですが、製作後の実測値を見ると略算法よりは信頼できる感じです。やや変則的な6AQ5の動作についても、かなり近い値が得られました。
 半導体の回路のシミュレートという点では、6CA7-PPに先行して予習という感じで製作した6Z-P1アンプのドライバ部(FETとTrのカスコード)の設計で使用し、結果は良く一致しました。これをふまえて、6SN7-PP、6AQ5-PP、6AK6-PPとドライブ回路に半導体を使ったアンプでは全面的にSPICEを使用しました。

出力部のトランジスタは放熱板に接着しました。出力トランスはこの裏側に付けました。

 最近製作しているアンプは真空管が主です。パソのモニタ用にICを使ったアンプを作りましたが、これはSPICEを使うような設計ではありませんでした。という訳で、今回ははじめてSPICEを使ったトランジスタアンプの設計。もっとも、作ろうと思ったのは出力トランス付きのトランジスタプッシュプルアンプという時代錯誤な物。これを手持ちの部品を活用して作る。SPCIEだと試行錯誤は無料です。ゴミ屑が出ませんし部屋も散らかりません。思いつきを図にして試す。

 合間にいろいろやって、それらしく動きそうな回路ができたので、この連休を利用して形にしてみました。トランジスタはすべて手持ちの余剰品。抵抗とコンデンサの数本を除くほとんどの部品も手持ち。ここで使わなきゃ廃棄されそうな物たち。

 実装時に勘違いをやってしまい、動作不良の原因がなかなか見つけられずにシンクロスコープまで出してチェックすることになりしまたが、なんとか部品の損傷もなく無事に安定動作するようになりました。
 やはりトランス物だからなのでしょうか、音が落ち着くまでに2時間ほどかかりました。普通のトランジスタアンプとは全然違いますが、真空管アンプとも違う不思議な感じの鳴り方です。

2016年8月16日火曜日

トランジスタとトランス結合

トランジスタ回路の初期には真空管との違いで戸惑ったことがいろいろありました。

  真空管は電圧を入力して電流を加減する素子です。負荷に抵抗(あるいはコイル)を置くと、ここに電圧が生じます。この電圧で次段を駆動する。伝えるのは電圧ですから、交流的にはコンデンサで 結合してかまいません。しかも、通常の動作では入力側に電流は流れずインピーダンスが高いので、前段と後段はそれぞれ相手のことはあまり考えずに済みます。

  トランジスタは基本的には電流を増大させる素子です。入力に流れる電流に応じて出力の電流がかわる。入力側の電流は流れる先の電位やインピーダンスによって変わります。とこからどこへ電流が流れ、その電流(あるいは流れる先の電位)は何で変わるのか。前から後ろからと、丁寧に電流を追って行けば流れは見えます。その上で抵抗と電流から電圧を求めてチェックする。これを真空管の時の要領で電圧から始めると混乱が混沌になります。 もうひとつ、電流が流れることで面倒になるのは前から後ろを見た時のインピーダンス。電流が流れるのが基本なので、結合にコンデンサが使いにくいです。これらを考えると、真空管のAB2級と同じ感じで、段間にトランスを使うのが簡単なように見えて当然です。

インピーダンスに合わせるため、ドライバトランスと入力トランスが使われていました。

 トランスを使う利点のひとつが電圧の利用率が良いことです。抵抗負荷ならば電源電圧の半分ぐらいを捨てることになりますが、トランス負荷なら、オフ側では電源電圧の1.5倍ぐらい振れます。これは小型で電池駆動の装置が多かった初期のトランジスタ回路には重要なことでした。バラツキが大きいトランジスタを使う上で、余裕をあまり取らなくても済むのは楽だという事もあったでしょう。初歩のラジオ製作でも、できあいのトランスを使えばこのあたりで悩まされずに済んだのは大きかったです。

 もうひとつ、トランジスタを使う上で困ったのは「温度特性」。電流を流すにはバイアスが要りますが、この電流が温度で変わる・・・というか、温度で必要なバイアス電圧が変わるので、電流が変わってしまう。これは半導体の接合の順電圧が原因なので、簡単にはダイオードか何かを入れてその順電圧でベースの電位をシフトさせれば良いのです。いわゆる「温度補償回路」です。素子自体の発熱による温度変化が問題になる(熱暴走!)出力段にはこれが必要ですが、これを入れるには前段と直流的に切り離されている方が簡単です。この点、トランス結合は好都合だったのです。


2016年8月14日日曜日

出力トランジスタをドライブする

時間を見て古い雑誌などの記事や回路を発掘してみました。 

[製作したトランジスタアンプの詳細は→こちら]

 真空管アンプについては(段間トランス+出力トランス)から(コンデンサ結合+出力トランス)へ移行し、その先にトランスを使わないSEPPが作られたという感じでした。
 トランジスタアンプは、出力段のドライブに悩まされたためか、SEPPでも段間のトランスを使った物がけっこうありました。しかし、出力トランスを使ったプッシュプルで段間トランスを使っていないという回路は見あたりませんでした。このあたり、位相反転回路で苦労したうえにドライブで苦労するのは引き合わないという事のようです。

 不要品から発生した古い出力トランスを活用するために、ドライバトランスを新規購入するのは本末転倒。なんとか現代的な回路で使えないか考えることにしました。命題は、なるべく手持ちが使えて新規購入する部品が少ないこと。シンプルで安定した回路で実用的な性能。できれば単電源12Vで動作。では、SPICEを使ったゲームの開始です。

 出力段の素子はトランジスタです。バイアスのことと、DC安定性のことを考えると、入力段から出力段のあいだのどこかで直流を切る必要があります。段間にトランスは使わないので、どこかにコンデンサ結合が入ります。

オーディオ用として知られたトランジスタたち @hfe測定中

 出力段のトランジスタを電流で駆動するのですから、思いついたのは{前にFETを置いて(電圧→電流)変換}というプラン。反転ダーリントンの前側をFETにした感じの組み合わせです。真空管アンプっぽい雰囲気になりますが、電圧の無駄が大きいです。おそらく音質的にはトランジスタアンプというよりもFETアンプ。面白そうだけど。
 位相反転回路が要りますから・・・・ここはトランジスタアンプらしく差動アンプが良さそうです。出力段のベースに電流を流すという視点から、差動2段にして2段目と出力段を直結というのも考えましたが、バイアスをかける良い方法が思いつきませんでした。出力段がAB級で休止区間ではベース電流が流れないのも面倒。

 結局、出力段自体をダーリントンにして等値的にhfeを高くしてベース電流を無視できる程度にするのが簡単という事になりました。こうすれば前から見たインピーダンスがかなり高くなるので、普通にコンデンサ結合で済ませられます。ベース電流が小さいので、かなり高い抵抗を通してバイアスを与えられます。そうなればバイアス電圧はダイオードの順電圧で済ませられます。
 見かけのインピーダンスを稼ぐのに高いhfeのトランジスタを使いますから、出力部の電圧利得は高目になります。SPICEで試すと、手持ちのある2SK30を差動アンプに使ってドライブできそうです。ただし、差動1段で平衡度を確保しようとすると、下に引くのに定電流が必要になります。都合、片側7石という構成になりました。石数は多いですが、動作的には6SN7-PPアンプと同じ2段アンプです。

 手持ちの2SK30は6AQ5-PPアンプ製作の際に測定してありますから、ここからほど良い物を選り出せます。あとはトランジスタ。ほど良い大きさのトランジスタでhfeがだいたい揃う物があるか。長く使っているテスタには簡単な付加回路でhfe測定ができる機能があります。ひさしぶりにこれを活用しました。

2016年8月13日土曜日

トランジスタとSEPPアンプの考察

サンスイ製のトランジスタ用の出力トランスが2個でてきました。これを活用したアンプを作れるかを検討しました。

 昔のトランジスタアンプ(音声出力回路)には出力トランスが使われていました。しかし今では出力トランスを使うトランジスタアンプはほとんどありません。まずは歴史を遡って考察してみることにしました。

 初期の真空管アンプ(音声出力回路)では出力トランスのほかに段間にもトランスが使われていました。トランスを使うことで電源電圧の利用率が良くなります。これは高耐圧で性能の良いコンデンサが得にくかったという事もあったかもしれませんが、電池で駆動するのでなければあまり重要ではありません。おそらくは価格と性能上の問題でしょう、段間のトランスはしだいに抵抗とコンデンサに置き換わって行きました。トランスが優位とされたのは、グリッド電流が流れるAB2級とか一部のプッシュプル(位相反転をトランスで済ます)ぐらいのようです。
 プッシュプルアンプの出力トランスはインピーダンスの整合という事と合わせて押し引きの相反する2つの動きを合成する働きをしています。トランスを使って並列に合成するかわりに、直接上下に積み重ねれば2つの出力を合成できます。これがSEPP回路。上下は逆相で駆動されますが、下側はグランド基準なのに対して、上側は(下側の出力=出力端子の電圧)の上に載るので、上側の基準電位は出力端子になります。一部のアンプではこれを段間トランス(上側を駆動する巻き線のコールド側を出力に結ぶ)で解決していました。トランス無しにする工夫としては、P-K分割のプレート側の電源を(コンデンサで結合して)出力で振るという方法がありました。
 これは初期のトランジスタアンプでも同様でした。多くのアンプは(別の問題もあったようですが)段間の結合にトランスを使っていました。本格的トランジスタアンプの初期の名器と言われたサンスイのAU-777では、P-K分割と同様のやり方でC-E分割の位相反転回路を使っていました。 

AU-777の頃の出力トランジスタはコンプリがありませんでした

 この点では逆極性のトランジスタを組み合わせる「コンプリメンタリー回路」は反則級の大技という事になります。
 真空管と違ってトランジスタは電流の向きが逆の素子が作れます。真空管ではカソード=マイナス電源側と決まっていますが、トランジスタではプラス電源側基準でも マイナス電源側基準でも回路が作れるのです。直列にした出力段の素子のうち、下側はマイナス側電源基準で駆動し、上側はプラス側電源基準で駆動する。こうすることで上側の入力を出力と合わせて振る必要が無くなります。そしてこの時、(素子の動作自体が上下逆転しているので)上下の素子を駆動する信号は同相で済むことになります。つまり位相反転回路も要らなくなる。
 コンプリメンタリーSEPPの基本回路は、NPNとPNPのトランジスタを上下に重ねて、ベースとベースを(バイアス回路を挟んで)結んで入力にするだけ。

 ゲルマニウムトランジスタの時代には、NPNの良いトランジスタはありませんでした。シリコントランジスタになっても、しばらくは 出力用に適したPNPトランジスタはありませんでした。このため、初期のトランジスタアンプの中にはゲルマニウムトランジスタとシリコントランジスタを組み合わせた物もありました。小型のトランジスタでコンプリの品種が出回るようになると、ダーリントンの片側を反転型にした準コンプリが多く使われました。

2016年8月12日金曜日

6SN7-PP 電源部をつくりかえ

今年の夏は増えたアンプを繋ぎ替える乗り切る算段。依然暑いですが、朝晩にはちょっと涼しさも感じるようになって来ました。

[製作した6SN7-PPアンプの詳細]

 繋ぎ替えると 、ついつい違いが気になって普段以上にじっくり聴いてしまいます。それぞれが理想的な物になっているなら、繋ぎ替えても違いは無いはずです。しかし違いが感じられなければ、それぞれが存在する意味が疑わしくなります。使っていて劣って感じることがあれば問題ですが、そうでなければそれぞれ他に優る点がひとつでもあれば嬉しいです。

 「居間のヌシ」の6BX7-PPアンプや「本命」の6CA7-PPと違って、私室の小型アンプたちはアソビ的な物です。実験であり、興味関心であり、余り物の整理であり、倹約と妥協でもあります。いろんな意味でチープで不十分です。だから、あらためて見直せば改善の余地はあります。
 あらためて聴き比べると気づく違い。その中には、製作時には「この程度なら支障ない」と判断した所もあります。気になればやはり気になるもの。時間のある時にひとつづつ修正。やって効果があれば他にも適用して、また聴き比べ。

6SN7-PPアンプ 電源部をつくりなおしました

 聴こえる音にはあらわれないけど、長く安心して使おうとすると耐久性も気になります。発熱の多い部品と熱に弱い部品が近接していたり。悩ましいのが『ラグ板』。昔からフェノール樹脂の板(いわゆるベークライト)が使われていますが、これは長時間熱が加わると変質し、絶縁低下します。昔はこれしか無かったのですが、往年のテレビにはこれよりも優れた素材が使われるようになっていました。しかしすっかり隙間世界となってしまった「真空管アンプ」に使われるラグ板はいつまでも昔のまま。
 配線整理の関係で12BH7-PPアンプは電源部をつくりなおしました。この時、使える平ラグ板の手持ちが無いので、ガラスエポキシ板とハトメラグを使って代用品を作りました。代用品ですが、耐熱性はこちらの方が良いです。そこであらためて他のアンプも点検して、発熱の多い電源部を見直しました。

アルミ板でブロック化したタイトラグ

 6BM8シングルアンプでは、回路部分がタイトラグに載っているのでこれに合わせる意味もあって、、ひと工夫して余剰品のタイトラグを活用しました。手間はかかりましたが、予想以上に具合良く仕上がりました。そこで、この方法をそのまま適用して、6SN7-PPアンプの電源部も作り直しました。このアンプは発熱的に厳しい訳ではないのですが、電源部が複雑です。このあたりの見かけの改善ももくろんだ訳です。
 タイトラグは2本ならべてアルミ板に付けて、これを元の平ラグの位置に付ける。アルミ板は、留めネジの頭を避けるために凸状に曲げて、ケミコンやトランスの取り付けネジに干渉する部分は切り欠いて、微妙な形です。