2019年4月22日月曜日

リアクタンス負荷

普通のオーディオアンプの設計では、便宜的に出力に接続する負荷を抵抗として扱います。しかし、実際に接続されるスピーカーは単純な抵抗ではありません。


 古い雑誌を見ていると面白い記事がありました。記事の内容は、当時登場したばかりの縦型FET(静電誘導トランジスター)の特性と現実の動作に関する考察でした。この素子は普通のトランジスタや接合型FETとは全く異なる静特性を持っていました。一見すると真空管の三極管と似ているので、ここから昔の三極管vs五極管の論議が持ち出されました。とは言っても、昔の真空管のように出力トランスを使うのではありません。真空管では不可能な逆極性のペアを使ったプッシュプル。真空管と同じように考えて良い訳はありません。あらためて見直します。

 トランジスタを使ったアンプの出力部は、最初こそトランス結合でしたが、コンデンサ結合のSEPPになり、すぐにコンプリメンタリーSEPPになり、出力コンデンサも不要のDCアンプ構成になりました。抵抗負荷なら、これらは単純に等値なのですが、実際のスピーカーを考えると、本当に等値なのだろうかという疑問が生じます。

実際のスピーカーはけっこう複雑な動きをします
  
 通常のスピーカーは細い導線を巻いたコイルを磁界の中に置いた構造です。コイルにはコーンが取り付けられています。純抵抗なら、アンプの出力電圧と電流は、電圧に関しても周波数に関しても比例する関係になるはずです。しかし、コイルですから、周波数的には直線ではありません。コイルの動きは物理的にコーンなどに抑えられるので、この分がインピーダンスに影響して来ます。動いたコーンは元に戻る時に逆に電流を生じますし、低域の共振点あたりでは振動によって生じる電流がアンプに流れ込んで来ます。

 前述の雑誌記事の要点は、現実のスピーカーを考えるならば、純抵抗から純リアクタンスの間にあるはずで、アンプの動作を考えるならば、抵抗負荷で考えたのでは不十分なのではないかという内容でした。(スピーカーの共振や外乱による電流まで考えるともっと面倒になりますが。)
 リアクタンス負荷では、電圧と電流は位相が90度ずれますから、静特性の図では直線ではなくリサージュのような円になります。記事はSEPPプッシュプルのAB級の領域とB級の領域の遷移についての考察でしたが、この問題はプッシュプルよりも(出力トランスを使用した)シングルで影響しそうです。リアクタンスが大きい場合は、静特性の図の上で抵抗負荷で引いた直線の右上や左下の領域が問題になります。

 このあたり、三極管vs五極管の論議やシングルとプッシュプルの(抵抗負荷で計測した)数値に表れない違いと何か関係がありそうです。そして、スピーカーの箱の形式やシングル/マルチの論議にも関わっているような気がします。