2019年5月2日木曜日

水平偏向出力管 12G-B7と12G-B3


縁でやって来た12G-B7。これはテレビの水平偏向出力管。昔のテレビで映像が映る部分はブラウン管と呼ばれる巨大な真空管。

 プラウン管は、おおまかに言えば円錐と四角錐の中間のような形。底面を手前にして横倒しになっています。奥側にある頂点から手前のアノードへ電子が飛んでそこに塗られた蛍光体に当たると発光する。この電子の流れを上下左右に振り回して映像を描く。テレビのブラウン管では、電磁石を使って(フレミングの法則)電子の流れを振り回していました。これが偏向。日米のテレビでは、毎秒30枚の画像を送って来ますが、1画面を1ラインずらして2回で描くので、垂直の動きは60Hz。1画面は水平の線525本で描かれるので、水平の動きは約15kになります。音声の帯域の上下ぎりぎりの所にうまく設定されているように思います。
 強力な電磁石を駆動するのですから、偏向管が扱う電力はどうしても大きくなります。特に高い周波数で大振幅が必要な水平偏向はたいへんです。さらにこの回路はブラウン管の電子流となる高圧発生も兼ねています。そのため、ここには大型のビーム管が使われました。

日本式型番の真空管 大きさは似ていますが能力は4倍ほど違います

 12G-B3はテレビの水平偏向出力用の真空管です。型番の示すように日本独自の規格の真空管です。家庭用のテレビには日本的な事情に合わせて作られた日本独自の真空管がいろいろ使われていました。
 初期の水平偏向出力には6BQ6など米国系の系統の管が使われたようです。欧州系の真空管を作っていた松下はPL36/25E5を製造しましたが、これは特殊な構造のフレートを持っていて、低い電圧で大電流が流せます。これは電源電圧が低い日本には好都合。しかし25E5は欧州のトランスレス管でヒーターが300mA。日本向きの600mA管が欲しい・・・

 そこで東芝が作ったのが12G-B3。25E5のヒーターを100V用に600mAに変更したような管。12G-B3は、昭和30年代を通して日本の各社のテレビに使用され、多くのメーカーが大量に生産しました。
 特性図では原型の25E5と微妙に違いがありますが、偏向用としては同特性と言われます。定格も少し違いますが、当時の定格の考え方はかなりあいまいだったので、実質的には同等のようです。どちらも長期間に少しづつ改良され、製造時期やメーカーによって構造に違いがあり、実際の定格は途中で少し大きくなっているという話もあります。
 その後、テレビの広角化と大画面化にともなってより大きな偏向電力が必要になり、12G-B3をひとまわり大型化した12G-B7が登場しました。管が太くなりプレートも大型になっていますが、(偏向用としては)特性を同じに揃えてあり、修理の際にそのまま差し替えて長寿命になるということでした。

 この系統の管はテレビではスニペッツが出やすいという欠点があったようです。特殊なプレート構造の関係か、プレート電圧の低い領域の特性が悪いのが原因らしいです。これはビーム管としてシングルアンプに使う場合には注意が要りそうです。