2023年12月22日金曜日

トランジスタ・シングルアンプへの考察 その1

私自身はこの記事に取り上げるようなアンプをは製作するつもりはありません。参考資料として掲載します。

 ある所で相談を受けたのはだいぶ前。その後もいくつか思う事があり、関連した内容をここに書きます。

 真空管アンプにはシングルとプッシュプルが普通に存在し、近年作られているものはシングルアンプが多いように見えます。揃った真空管が得にくい最近の事情もありますし、シングルの方がそれぞれの管の特徴が出やすいという考えもあるようです。一方、トランジスタを使ったアンプは昔からほとんどがプッシュプルでした。というか、実用向きのトランジスタのアンプでシングルという物を見た事がありません。初期のトランジスタではある程度の出力を得るにはプッシュプルにする必要があったとか、トランジスタは高効率省電力がウリなのでプッシュプルは必然とか、商業的な理由はすぐに思い付きます。しかし、トランジスタと真空管の音を論じる中でもトランジスタ・シングルアンプが登場した記憶はありません。

 あらためてトランジスタでシングルアンプを真面目に作る事を考えます。シングルアンプは当然A級動作で無信号時に大きく発熱します。トランジスタは高温に弱く温度変化に敏感です。しかし小出力のアンプであれば、ある程度放熱と温度補償に配慮すれば扱い困難という事は無いでしょう。6AR5とか6BM8とかシングルで出力数Wの管と比較する物を今作るなら、TO-220ぐらいのトランジスタでも十分なはずです。

 手許の余剰の部品をかきまわすとTO-220のトランジスタがいくつか出て来ました。このようなトランジスタはどにでもあるはずです。これらは小さな放熱器でも数Wは取れます。電流はそこそこ取れますが耐圧は数十V程度。問題はこれでどうやってスピーカーを駆動するか。

 プッシュプルならトランスレスもあるのですが、真空管のシングルアンプには出力トランスがつきものです。実はシングルアンプのトランスは、プッシュプルと違って、インピーダンスの整合以上に重要な働きをしているのです。
 現在一般的なダイナミックスピーカーのコイルには交流が流れ、コイルの磁界が反転する事でコーンを前後に動かしています。コーンを押す時と引く時の両方で対称に電流を流す必要があります。この点でダイナミックスピーカー自体がプッシュプルな素子なのです。したがってプッシュプルアンプとは相性が良いのです。
 問題はシングルアンプ。プレート(コレクタ)へ引くにしろカソード(エミッタ)から流すにしろ、片側しか駆動できない。スピーカーは電力素子ですし、コーンの動きに伴ってコイルには電流が流れます。ダンピングの問題です。ここでトランスのLが効いてきます。真空管(トランジスタ)がOFFに向かう時に、ON 時にコイルを磁化したエネルギーによって電流が流されます。だからこれはチョークコイルでも良いけれど、普通のCR結合回路のように抵抗で吊るのではダメなのです。所謂アクティブ負荷という物がありますが、この方向に進むとSRPPに至ってしまいシングルとは違って来ます。 

 つまり、トランジスタでも真空管でも、シングルアンプならOFF側で積極的に電流を流す物が要る。そのためのシンプルな方法がリアクタンス。つまりトランスかチョークを直列に入れる。(昔のマグネチックスピーカーは、直流を重畳させて磁化させるように作られていて大きなL性を持ってます。だからトランス無しで繋いで良いのです。)

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