2018年2月12日月曜日

マイクロホニック

真空管は金属電極を雲母板にはめこんで組み立てられています。だから振動にはデリケートです。

 昔はさまざまな機器に真空管が使われていました。家庭のラジオやテレビは木製あるいはプラスチック製の箱の中に回路とスピーカーが一緒に入っていました。テープレコーダーなど、モーターやメカの間に回路が挟まっているような状態でした。
 周囲の振動で管内の電極が振動すれば、電気信号に影響が出ます。真空管がマイクロホンのようになってしまう。ハウリングのようになったり、ゴロゴロ・ゴソゴソ音が混じったり。

 微少信号を扱う回路などでは、 ソケットをバネやゴムで浮かせたり真空管の取り付けにも工夫がありました。また、振動の影響を受けにくいというウリの管もありました。 
手持ちの6AU6はラジオなどの中古です

 製作した真空管アンプを使って部屋で音楽を聴いています。せっかく同じような物が8個もできたのだから、ときどき繋ぎ替えて遊んでいます。ここしばらく寒いので、比較的発熱の多い物を鳴らしています。いずれも基本的には同じ方向性で作った物で実用上は大差無いはずなのですが、繋ぎかえれば多少の差異があります。キャラクタ的な所はそれぞれの存在価値。甲乙付けられるものではありません。しかし比べてみて劣った所に気付くこともあります。そうなれば原因を考えて、時間があればひと手間かけて思いつきを確かめて。

 スピーカーとヘッドホンで適不適があるのか、ちょっと気になって聞き比べ。その際、6AQ5シングルアンプ にヘッドホンを抜き差ししようとしたところヘッドホンに小さな音が。念のためシャシーを指先で叩いてみると、コンコンという。どこか接触不良?? 思いついて真空管の管壁を爪先で弾いてみると・・・片方の6AU6からとカンカンとはっきり音が聞こえました。

 6AU6は小信号増幅にも使われていて、Hi-Fiとか通測用とか書かれた物もありましたが、このアンプに使っているのは何となく集まったラジオなどの中古。ハムは心配したのですが、マイクロホニックは無警戒でした。そこで(先日購入した旧ソ連製の互換管も含めて)手持ちの管を差し替えて確認。幸い、はっきりと鳴るのは1本、少し聴こえるのが1本。それほど悪い成績ではありませんでした。

2017年4月25日火曜日

代用ブロックコンデンサ ( 6CA7-PP 用 )

無いを有るに替える工夫は有るか? 実際ひと手間かければ何とかなることもあります。

 しばらくぶりに電気ものの製作を再開したのは、長年の懸案「6CA7-PP」アンプの製作が機会。昔に確保した部品はあれこれありましたが、足りない物はあちこち探して購入しました。昔と大差無い部品もあれば、特性的に大幅に向上した物もありました。しかし入手困難な物も。
 最近はまた真空管アンプが作られているようですが、真空管からトランジスタに移行して、それが行ききった先で折り返して来たような 感じでしょうか。問題は、電気部品の多くは大きな工場のラインで量産される物ということ。良く売れる物はどんどん改良されて優れた物が作られるけれど、売れない物は停滞して消滅して行きます。

 最近の受動部品は、電気的な特性以上に信頼性が高くなっています。小型化も進んでいるので、容量的に余裕のある物を使用すれば、さらに安心感が増します。趣味的な市場向けに昔の技術で少量製造されている高価な部品もありますが、ノスタルジー的な意味を除けばこれらに拘る必要はほとんど無いでしょう。

最近のコンデンサは性能が向上して小型化しています。余裕で入ります。

 信号系のコンデンサについては、現代のコンデンサの方が特性も信頼性も段違いに優っています。昔のコンデンサは(現役当時でも)劣化が心配な部品でしたから、古いジャンク品は論外、たとえ未使用でも古い在庫品を使用するべきでは無いと思っています。


 ところが悩ましいのがプロックコンデンサ。昔の真空管アンプには必須だったけれど、今では高耐圧の品は事実上絶滅しています。電気的には優れた代替品がありますが外観に影響します。

 6CA7-PPアンプ製作の際には、プレート回路のプロックコンデンサは海外製の新品を使用しましたが、他は『とりあえず』手持ちのジャンクを使いました。電解コンデンサは未使用でも古くなると劣化します。使用前に測定してあまり劣化していない物を選んだのですが、今後も長く使うには不安要素です。
 その後にアンプを製作する際には、入手不能なブロックコンの代用に最近の技術で作られた「基板自立型コンデンサ」を使いました。太くて短い物ならば入手容易で価格も比較的安いですが、背が高くブロックコンのようにシャーシ上に立てて見栄えする物はあまり出回っておらず、価格も高目でした。


 先日ふと思い付いたこと。昔のブロックコンの直径は約35mm。入手容易な基板自立型コンデンサの外径は25~30mm。背が低いので、縦に積んだら古いブロックコンの円筒の中に2個入ります。つまり、代替困難な2個入りブロックコンデンサの代用品として使えるはず。


 容量が抜けた古いブロックコンを切断して内部を抜いてその中に新しいコンデンサを入れました。端子部分は元の物を接着しました。見た目は昔のブロックコンデンサのままですが、電気的な性能も信頼性も格段に高くなります。こうすれば現在は入手困難な複数入ったタイプのプロックコンを代替できます。

2017年1月18日水曜日

ロシアから来た真空管

全盛期には世界のあちこちの国で真空管が作られていました。真空管は消耗品で簡単に差し替えてメンテナンスするイメージでした。そのため、オリジナルのメーカー以外で製造された物も多く流通していました。

 真空管の規格化とそれによる互換品の製造は米国が進んでいました。その後、欧州でも独自の規格が規定されました。これらの真空管の中にはほぼ同じ規格の物もあり、その多くは実質的に同じ(名称違い程度)物で相互に差し替え可能でした。米国型番の管は、6AQ5や6AK6などまだ米国に未使用在庫が多くある物もあります。6CA7/EL34のように欧州型番を持った管の場合、欧州型番で検索した方が多く見つかる場合もあります。

 日本も独自の真空管の規格が作られましたが、日本の真空管メーカーは米国系の型番の真空管を多く作りました。 どちらかと言うと、前者はテレビ用など特定の用途以外にはあまり使われず、一般に多く使われたのは後者でした。結果、日本規格の管は今日ではだいたい入手困難になっています。

旧ソ連製真空管 6BM8,6AU6,6SN7の互換管


 旧東側諸国でも真空管は作られていて、それらは独自の型番を持っています。 その中には欧州と米国の管の関係と同様に、欧州の管とほぼ同じ規格の管もありました。ソビエト崩壊後、これらは比較的容易に入手できるようになりました。現状では価格も安く在庫量も多いです。

 私室用に作った小型アンプの使っている真空管の中には、 かなりくたびれた管が多いものもあります。ふと思いついてこれらの未使用品を入手を検討してみました。その中で、6BM8(ECL82)と6AU6(EF94)は旧ソ連製の相当管があることを知りました。同じ所に6SN7-GTの相当管もありました。

 今回ネット通販で購入したのは、
   EF94 (6AU6) の相当管 6J4P
   ECL82 (6BM8) の相当管   6F3P
   ECC32 (6SN7-GT,) の相当管 6N8S

注意: 6J4Pは6AU6より少し背が高いです。

 まず、6BM8のアンプに 6F3Pを差して鳴らしてみました。3極部のゲインが上がったのでしょうか、交換前のくたびれた管より少しクリアな音がする気がします。

2017/01/21 追記 
 6N8Sを6SN7-PPに差してみました。動作の点でも音質の点でもまったく問題ありません。
 6J4Pを6AQ5-Sアンプの初段の6AU6と差し替えました。使用していた6AU6がだいぶくたびれた中古でgmが低下ぎみだった事もあるのでしょう。全体にこちらの方がすっきり聞こえます。
 これらの旧ソ連規格の管については、実用上差し替えて問題無く使えるものと思います。

2019/02/09 追記
 旧ソ連製の6F1Pを入手しました。規格表で比較しましたが、これはECF80/6BL8の相当管のようです。差し替えて鳴らしてみましたが、支障無く使えました。

2016年12月12日月曜日

6AQ5 シングル シャシーを改造して通気を改善する

すっかり冬です。寒いです。真空管の発熱がむしろ心地よいぐらい。

 私室では、小型アンプたちの中でも比較的発熱の大きいアンプを鳴らしています。回路部分の発熱では、12BH7A-PPが最大で、6AQ5-PPはほぼこれに合わせて製作しました。6BX7-S6BM8-S6AQ5-Sの3台のシングルアンプは、これらより少し小さいぐらいで並びます。

 6AQ5-PPは総発熱量を抑える意味で、出力管を定格よりも大幅に絞って使っています。このため管壁の温度は低いです。
 6BX7は直径の大きなGT管ですが、管壁が熱くなる管として知られています。元々オーディオ用ではなく過大なヒーター電力に足を引っ張られているためです。アンプ製作時に管のまわりに通気穴をあけました。これが効いているのか、心配するほどの高温にはならずに済んでいます。
 やはり高温になる管として知られている6BM8。主に外観改善が狙いだったのですが、出力管を10mm下げるようにしたところ、管周りの通気が良くなり、これも心配するほどの温度にはなっていません。

通気を改善するため、サブパネル構造にして6AQ5を4mm下げました。

 問題は6AQ5シングルアンプ。定格よりだいぶ抑えて使っているのですが、6AQ5の管壁がけっこう熱くなります。1本あたりの発熱量は12BH7Aとほぼ同じですから、管形が小さいのが災いしているのはあきらか。管をいたわるという点からも何かしてやりたいです。と言っても、できるのは通気の改善ぐらい。
 幸い6AQ5の真下は空いています。出力管とまわりの抵抗とコンデンサを中継している立ラグ板ごとユニット状にしてサブパネルに載せて、少し下げて取り付けた隙間から管壁に沿って空気が流れるようにしました。併せて配線の引き回しを少し修正。回路も部品も何も変わっていないので音が良くなるはずは無いのですが・・・・ やはり気分でしょう。

2016年8月17日水曜日

出力トランス付き トランジスタアンプ

過去の遺物整理の中で発掘したサンスイのSTトランス。これを使ってランジスタのアンプを作ることにしました。

 長く中断していた電子工作を再開するきっかけは、懸案だった6CA7-PPアンプの製作。このアンプの設計の際には、ドライバ部については、3定数から求める略算法と特性図を基に図上に線を引くという昔からの方法に加えて、パソコンのSPICE(電子回路シミュレータ)を試しました。


 このSPICEは、半導体メーカーが無料で提供してくれている物です。ネットで拾えた真空管のパラメータを組み込んだので真空管の回路も設計できていますが、本来はトランジスタ回路の設計のための物です。パラメータがどのぐらい実際の特性を再現しているか不明ですが、製作後の実測値を見ると略算法よりは信頼できる感じです。やや変則的な6AQ5の動作についても、かなり近い値が得られました。
 半導体の回路のシミュレートという点では、6CA7-PPに先行して予習という感じで製作した6Z-P1アンプのドライバ部(FETとTrのカスコード)の設計で使用し、結果は良く一致しました。これをふまえて、6SN7-PP、6AQ5-PP、6AK6-PPとドライブ回路に半導体を使ったアンプでは全面的にSPICEを使用しました。

出力部のトランジスタは放熱板に接着しました。出力トランスはこの裏側に付けました。

 最近製作しているアンプは真空管が主です。パソのモニタ用にICを使ったアンプを作りましたが、これはSPICEを使うような設計ではありませんでした。という訳で、今回ははじめてSPICEを使ったトランジスタアンプの設計。もっとも、作ろうと思ったのは出力トランス付きのトランジスタプッシュプルアンプという時代錯誤な物。これを手持ちの部品を活用して作る。SPCIEだと試行錯誤は無料です。ゴミ屑が出ませんし部屋も散らかりません。思いつきを図にして試す。

 合間にいろいろやって、それらしく動きそうな回路ができたので、この連休を利用して形にしてみました。トランジスタはすべて手持ちの余剰品。抵抗とコンデンサの数本を除くほとんどの部品も手持ち。ここで使わなきゃ廃棄されそうな物たち。

 実装時に勘違いをやってしまい、動作不良の原因がなかなか見つけられずにシンクロスコープまで出してチェックすることになりしまたが、なんとか部品の損傷もなく無事に安定動作するようになりました。
 やはりトランス物だからなのでしょうか、音が落ち着くまでに2時間ほどかかりました。普通のトランジスタアンプとは全然違いますが、真空管アンプとも違う不思議な感じの鳴り方です。

2016年8月16日火曜日

トランジスタとトランス結合

トランジスタ回路の初期には真空管との違いで戸惑ったことがいろいろありました。

  真空管は電圧を入力して電流を加減する素子です。負荷に抵抗(あるいはコイル)を置くと、ここに電圧が生じます。この電圧で次段を駆動する。伝えるのは電圧ですから、交流的にはコンデンサで 結合してかまいません。しかも、通常の動作では入力側に電流は流れずインピーダンスが高いので、前段と後段はそれぞれ相手のことはあまり考えずに済みます。

  トランジスタは基本的には電流を増大させる素子です。入力に流れる電流に応じて出力の電流がかわる。入力側の電流は流れる先の電位やインピーダンスによって変わります。とこからどこへ電流が流れ、その電流(あるいは流れる先の電位)は何で変わるのか。前から後ろからと、丁寧に電流を追って行けば流れは見えます。その上で抵抗と電流から電圧を求めてチェックする。これを真空管の時の要領で電圧から始めると混乱が混沌になります。 もうひとつ、電流が流れることで面倒になるのは前から後ろを見た時のインピーダンス。電流が流れるのが基本なので、結合にコンデンサが使いにくいです。これらを考えると、真空管のAB2級と同じ感じで、段間にトランスを使うのが簡単なように見えて当然です。

インピーダンスに合わせるため、ドライバトランスと入力トランスが使われていました。

 トランスを使う利点のひとつが電圧の利用率が良いことです。抵抗負荷ならば電源電圧の半分ぐらいを捨てることになりますが、トランス負荷なら、オフ側では電源電圧の1.5倍ぐらい振れます。これは小型で電池駆動の装置が多かった初期のトランジスタ回路には重要なことでした。バラツキが大きいトランジスタを使う上で、余裕をあまり取らなくても済むのは楽だという事もあったでしょう。初歩のラジオ製作でも、できあいのトランスを使えばこのあたりで悩まされずに済んだのは大きかったです。

 もうひとつ、トランジスタを使う上で困ったのは「温度特性」。電流を流すにはバイアスが要りますが、この電流が温度で変わる・・・というか、温度で必要なバイアス電圧が変わるので、電流が変わってしまう。これは半導体の接合の順電圧が原因なので、簡単にはダイオードか何かを入れてその順電圧でベースの電位をシフトさせれば良いのです。いわゆる「温度補償回路」です。素子自体の発熱による温度変化が問題になる(熱暴走!)出力段にはこれが必要ですが、これを入れるには前段と直流的に切り離されている方が簡単です。この点、トランス結合は好都合だったのです。


2016年8月14日日曜日

出力トランジスタをドライブする

時間を見て古い雑誌などの記事や回路を発掘してみました。 

[製作したトランジスタアンプの詳細は→こちら]

 真空管アンプについては(段間トランス+出力トランス)から(コンデンサ結合+出力トランス)へ移行し、その先にトランスを使わないSEPPが作られたという感じでした。
 トランジスタアンプは、出力段のドライブに悩まされたためか、SEPPでも段間のトランスを使った物がけっこうありました。しかし、出力トランスを使ったプッシュプルで段間トランスを使っていないという回路は見あたりませんでした。このあたり、位相反転回路で苦労したうえにドライブで苦労するのは引き合わないという事のようです。

 不要品から発生した古い出力トランスを活用するために、ドライバトランスを新規購入するのは本末転倒。なんとか現代的な回路で使えないか考えることにしました。命題は、なるべく手持ちが使えて新規購入する部品が少ないこと。シンプルで安定した回路で実用的な性能。できれば単電源12Vで動作。では、SPICEを使ったゲームの開始です。

 出力段の素子はトランジスタです。バイアスのことと、DC安定性のことを考えると、入力段から出力段のあいだのどこかで直流を切る必要があります。段間にトランスは使わないので、どこかにコンデンサ結合が入ります。

オーディオ用として知られたトランジスタたち @hfe測定中

 出力段のトランジスタを電流で駆動するのですから、思いついたのは{前にFETを置いて(電圧→電流)変換}というプラン。反転ダーリントンの前側をFETにした感じの組み合わせです。真空管アンプっぽい雰囲気になりますが、電圧の無駄が大きいです。おそらく音質的にはトランジスタアンプというよりもFETアンプ。面白そうだけど。
 位相反転回路が要りますから・・・・ここはトランジスタアンプらしく差動アンプが良さそうです。出力段のベースに電流を流すという視点から、差動2段にして2段目と出力段を直結というのも考えましたが、バイアスをかける良い方法が思いつきませんでした。出力段がAB級で休止区間ではベース電流が流れないのも面倒。

 結局、出力段自体をダーリントンにして等値的にhfeを高くしてベース電流を無視できる程度にするのが簡単という事になりました。こうすれば前から見たインピーダンスがかなり高くなるので、普通にコンデンサ結合で済ませられます。ベース電流が小さいので、かなり高い抵抗を通してバイアスを与えられます。そうなればバイアス電圧はダイオードの順電圧で済ませられます。
 見かけのインピーダンスを稼ぐのに高いhfeのトランジスタを使いますから、出力部の電圧利得は高目になります。SPICEで試すと、手持ちのある2SK30を差動アンプに使ってドライブできそうです。ただし、差動1段で平衡度を確保しようとすると、下に引くのに定電流が必要になります。都合、片側7石という構成になりました。石数は多いですが、動作的には6SN7-PPアンプと同じ2段アンプです。

 手持ちの2SK30は6AQ5-PPアンプ製作の際に測定してありますから、ここからほど良い物を選り出せます。あとはトランジスタ。ほど良い大きさのトランジスタでhfeがだいたい揃う物があるか。長く使っているテスタには簡単な付加回路でhfe測定ができる機能があります。ひさしぶりにこれを活用しました。