2016年8月13日土曜日

トランジスタとSEPPアンプの考察

サンスイ製のトランジスタ用の出力トランスが2個でてきました。これを活用したアンプを作れるかを検討しました。

 昔のトランジスタアンプ(音声出力回路)には出力トランスが使われていました。しかし今では出力トランスを使うトランジスタアンプはほとんどありません。まずは歴史を遡って考察してみることにしました。

 初期の真空管アンプ(音声出力回路)では出力トランスのほかに段間にもトランスが使われていました。トランスを使うことで電源電圧の利用率が良くなります。これは高耐圧で性能の良いコンデンサが得にくかったという事もあったかもしれませんが、電池で駆動するのでなければあまり重要ではありません。おそらくは価格と性能上の問題でしょう、段間のトランスはしだいに抵抗とコンデンサに置き換わって行きました。トランスが優位とされたのは、グリッド電流が流れるAB2級とか一部のプッシュプル(位相反転をトランスで済ます)ぐらいのようです。
 プッシュプルアンプの出力トランスはインピーダンスの整合という事と合わせて押し引きの相反する2つの動きを合成する働きをしています。トランスを使って並列に合成するかわりに、直接上下に積み重ねれば2つの出力を合成できます。これがSEPP回路。上下は逆相で駆動されますが、下側はグランド基準なのに対して、上側は(下側の出力=出力端子の電圧)の上に載るので、上側の基準電位は出力端子になります。一部のアンプではこれを段間トランス(上側を駆動する巻き線のコールド側を出力に結ぶ)で解決していました。トランス無しにする工夫としては、P-K分割のプレート側の電源を(コンデンサで結合して)出力で振るという方法がありました。
 これは初期のトランジスタアンプでも同様でした。多くのアンプは(別の問題もあったようですが)段間の結合にトランスを使っていました。本格的トランジスタアンプの初期の名器と言われたサンスイのAU-777では、P-K分割と同様のやり方でC-E分割の位相反転回路を使っていました。 

AU-777の頃の出力トランジスタはコンプリがありませんでした

 この点では逆極性のトランジスタを組み合わせる「コンプリメンタリー回路」は反則級の大技という事になります。
 真空管と違ってトランジスタは電流の向きが逆の素子が作れます。真空管ではカソード=マイナス電源側と決まっていますが、トランジスタではプラス電源側基準でも マイナス電源側基準でも回路が作れるのです。直列にした出力段の素子のうち、下側はマイナス側電源基準で駆動し、上側はプラス側電源基準で駆動する。こうすることで上側の入力を出力と合わせて振る必要が無くなります。そしてこの時、(素子の動作自体が上下逆転しているので)上下の素子を駆動する信号は同相で済むことになります。つまり位相反転回路も要らなくなる。
 コンプリメンタリーSEPPの基本回路は、NPNとPNPのトランジスタを上下に重ねて、ベースとベースを(バイアス回路を挟んで)結んで入力にするだけ。

 ゲルマニウムトランジスタの時代には、NPNの良いトランジスタはありませんでした。シリコントランジスタになっても、しばらくは 出力用に適したPNPトランジスタはありませんでした。このため、初期のトランジスタアンプの中にはゲルマニウムトランジスタとシリコントランジスタを組み合わせた物もありました。小型のトランジスタでコンプリの品種が出回るようになると、ダーリントンの片側を反転型にした準コンプリが多く使われました。