2019年4月24日水曜日

テレビ用真空管

私の子ども時代のテレビは真空管。しかしそこに使用されていた真空管はラジオやアンプなどでは見掛けない型番の物ばかりでした。

 最近になって、12G-B7という大型の真空管が1本やって来ました。保守用の使い残しでしょうか、箱は水濡れ跡があり半ば潰れていますが、管自体は新品のようです。これは日本のテレビ用の真空管で、子ども時代に部品取りに解体した廃棄テレビの中でも見掛けた記憶があります。これも何かの縁。あらためてしらべてみることにしました。

 子ども自体には真空管でラジオやアンプを作って遊びました。その際、廃棄テレビからいろいろ部品取りしたけど、真空管を使う事は考えなかったです。

12G-B7は大型化して 12G-B3の許容損失を増した物。箱には定価は1300円と書かれています。


 昔の感覚では真空管はそれぞれ用途が 決まっている物。特にテレビは真空管をうまく組み合わせて少ない本数で効率よく高性能を得るのが工夫のしどころだったようです。

 しかし、テレビ用の真空管の中にはラジオやオーディオに使われていた管を原型にした物もありますし、逆にテレビ出身でアンプなどに使われるようになった管もあります。だから、当時ある程度関心と知識があれば、テレビ用の管を使って遊ぶ事もできたかもしれません。
 ところが、この頃は家庭のラジオやステレオなどはトランジスタ化が進んでいて、ラジオ用など定番の真空管のバルク物はかなり安く出回っていましたから、テレビ用の真空管を無理して使う必要はありませんでした。そのためでしょうか、雑誌などを見直してもテレビ用の管使う話は(無線関係を除くと)ほとんど出て来ません。

 あらためて見直すと面白そうなテレビ用真空管がいくつかありますが、当時これらをハナから除外してしまった一番の理由はヒーター電圧。当時の一般的なテレビは、真空管のヒーター を直列にして電源100Vを加えるトランスレス(電源トランスを使わない)でした。これは軽量化と安価低減にもなりますが、狭い筐体で漏洩磁束の影響を避けるのにたいへん効果的だったと思われます。このため多くの管はヒーター電圧が6.3Vではなかったのです。(当時は3.15V管を2本直列したり、6.3Vの巻線を直列にして12.6Vにする事は思いつかなかったです。)

2019年4月22日月曜日

リアクタンス負荷

普通のオーディオアンプの設計では、便宜的に出力に接続する負荷を抵抗として扱います。しかし、実際に接続されるスピーカーは単純な抵抗ではありません。


 古い雑誌を見ていると面白い記事がありました。記事の内容は、当時登場したばかりの縦型FET(静電誘導トランジスター)の特性と現実の動作に関する考察でした。この素子は普通のトランジスタや接合型FETとは全く異なる静特性を持っていました。一見すると真空管の三極管と似ているので、ここから昔の三極管vs五極管の論議が持ち出されました。とは言っても、昔の真空管のように出力トランスを使うのではありません。真空管では不可能な逆極性のペアを使ったプッシュプル。真空管と同じように考えて良い訳はありません。あらためて見直します。

 トランジスタを使ったアンプの出力部は、最初こそトランス結合でしたが、コンデンサ結合のSEPPになり、すぐにコンプリメンタリーSEPPになり、出力コンデンサも不要のDCアンプ構成になりました。抵抗負荷なら、これらは単純に等値なのですが、実際のスピーカーを考えると、本当に等値なのだろうかという疑問が生じます。

実際のスピーカーはけっこう複雑な動きをします
  
 通常のスピーカーは細い導線を巻いたコイルを磁界の中に置いた構造です。コイルにはコーンが取り付けられています。純抵抗なら、アンプの出力電圧と電流は、電圧に関しても周波数に関しても比例する関係になるはずです。しかし、コイルですから、周波数的には直線ではありません。コイルの動きは物理的にコーンなどに抑えられるので、この分がインピーダンスに影響して来ます。動いたコーンは元に戻る時に逆に電流を生じますし、低域の共振点あたりでは振動によって生じる電流がアンプに流れ込んで来ます。

 前述の雑誌記事の要点は、現実のスピーカーを考えるならば、純抵抗から純リアクタンスの間にあるはずで、アンプの動作を考えるならば、抵抗負荷で考えたのでは不十分なのではないかという内容でした。(スピーカーの共振や外乱による電流まで考えるともっと面倒になりますが。)
 リアクタンス負荷では、電圧と電流は位相が90度ずれますから、静特性の図では直線ではなくリサージュのような円になります。記事はSEPPプッシュプルのAB級の領域とB級の領域の遷移についての考察でしたが、この問題はプッシュプルよりも(出力トランスを使用した)シングルで影響しそうです。リアクタンスが大きい場合は、静特性の図の上で抵抗負荷で引いた直線の右上や左下の領域が問題になります。

 このあたり、三極管vs五極管の論議やシングルとプッシュプルの(抵抗負荷で計測した)数値に表れない違いと何か関係がありそうです。そして、スピーカーの箱の形式やシングル/マルチの論議にも関わっているような気がします。

2019年2月16日土曜日

BGMにmp3をかける

先日作った12AU7-PPアンプに小型スピーカーを繋いで、作業中のBGMをかけています。

 しっかり聴くのではなく、だらだらと音楽を流すとなると、いちいち交換する手間のかかるCDとかは不都合。多少音質が低下するけど、この点ではパソでmp3を鳴らすのが簡単。しかし、しっかり聴くのでなければパソから送り出すほどの事は無い。スマホとかでも良さそうだけど、いちいち繋ぐのも面倒。

 あれこれ考えているうちに見つけたのは、ちょっと怪しげなmp3プレーヤーのモジュール。何かの組み込み用らしいです。USBかSDメモリーを挿入すれば、中のmp3を連続して再生するらしい。電源は5Vで、出力は直接スピーカーを繋ぐらしい。でもどうやら出力はグランド基準では無さそう。これを何とかして、アンプに繋げるかしら。安かったので、とりあえず試して見ることにしました。

基板に付いているコネクタは電源と左右のスピーカー用です

 まず、電源に5Vを接続して出力端子の電圧を測ると、どちらも+2.5V。差動出力らしい。どこかからグランド基準の出力が取れるだろうか。
 基板の載っているICを見ると、8002と書かれています。検索したら、それらしい製品の資料が出てきました。基板のパターンを追ってみると、資料の推奨回路とピン接続と合致すます。どうやら、コレでアタリらしい。(下の写真)

8002はちょっと面白い構成のICです。

 資料の解説には小電力のBTLオーディオアンプと書かれていますが、内部構成が独特です。というか、これはBTL(負荷ブリッジ接続)というのとは違うような・・・
 内部は2個のパワー・オペアンプのようです。第一ユニットは普通に正負の入力(4と3ピン)が出ていて、推奨回路では反転アンプとして使っています。第二ユニットは内部で-1倍の反転アンプとなるように構成され、この入力は第一ユニットの出力に結ばれています。IC内部で基準の1/2Vccが作られていて(2ピン)、第二ユニットの+入力は内部でここに結ばれています。推奨回路では第一ユニットの+をここに結んでいます。このように、2つのユニットは電力的には独立しているので、片側からのみ出力を取っても問題無さそうです。

 そこで、第一ユニットの出力(5ピン)から引きだして、コンデンサを通してアンプに繋いでみました。けっこういい感じで音が出ます。心配だった耳障りなノイズは問題無さそうですが・・・何か音がザラついています。基板上にフィルタらしい物が無いですから、デジタルのノイズが素通しで出ているのでしょう。そこで簡単なフィルタを付けてみることにしました。
 手もとにある使い残しの抵抗とコンデンサを組み合わせて2段のCRローパスフィルタを作りました。8002はスピーカーを鳴らせるICですから、フィルタのインピーターンスは低目にして、後続のバッファは無しで済ませました。(上の写真奥側の小基板)

 簡単なフィルタですが、それなりに効果があるようです。常用のシステムに繋いでしっかり聴くとやはりガサツな音ですが、音量控え目でぼんやり聴くならあまり支障無いぐらいで、BGM用ならじゅうぶん使えます。(片出力で使っているので電源ON/OFF時のポップノイズは出ます。)

 合板の端材でケースのような物を作りました。バネル面の電源スイッチは操作しにくいので、小型のスナップスイッチを並列に付けました。

2019年2月11日月曜日

カソードNFをかけました 6AQ5-S

キャラ的にどうしても出番が少ない6AQ5シングルアンプ。改造してしっかりとK-NFをかけます。


 改造と言っても、トランスや真空管はそのまま使って筐体もそのまま使います。発熱対策で周囲の通気を良くするため、6AQ5はサブパネルで約4mm沈めて付けてます。この部分もそのまま使います。このため外観はまったく変更無しです。

 インピーダンス確保のためにエミッタフォロワを追加しますが、これは内部のスペースに収まります。ネジ穴も元のをそのまま使いますから、改造するのは内部の回路だけです。
 トランジスタ用の電源はコンデンサ保護の分流抵抗から分けて取りましたから、電源回路は元のままです。
 接地されていた出力管カソードのケミコンは出力トランスの2次側に接続変更します。このため立ラグ板を追加して中継します。このコンデンサは容量を増すために新規購入して交換しました。
 ヒーターバイアスは出力管のカソード電位を利用した簡易な方法でしたが、カソードが出力とともに振られるようになるので、これが使えなくなります。そこでヒーターは片側接地にしました。初段のカソードがコンデンサで接地されるので支障無いと判断しました。初段のG2のバイパスは直接グランドに繋ぎました。 

カソードNFをかける改造をおこないました

 エミッタフォロワーの部分はスルーホール基板の残材を利用して作りました。トランジスタは汎用の小信号用なら何を使っても大差無いです。後で差し替えて遊ぶかもしれないのでソケットにしてあります。
 6AU6の関係の部品は元と同じように平ラグ板に載せます。値の変わる抵抗と位相補正用のコンデンサは交換しました。その他の多くは再利用ですが、回路が大幅に変わるため一旦全部外して付け直しました。このような改造が簡単なのは平ラグ配線の利点です。

 バッファ基板の組み立ても含めて、改造はゆっくりやって半日の作業。それから動作チェック。
 まず何も挿さずに電圧を確認。それから出力管を挿して、カソードNFを付けて発振しないことを確認。トランジスタを挿してバッファの動作を確認。6AU6を挿して、もう一度電圧チェック。それから信号を入れてみます。メージャーNFはかかっていませんが、けっこういい感じの音が出ます。それからNFを接続。
 あらためてスピーカーを繋いでしっかり鳴らします。やはり最初はだいぶ酷い音が出ました。出力トランスの直流磁化が変化したからでしょうか。そのまま鳴らしていると次第に落ち着いて来ました。音の傾向は元とはずいぶん違います。念のため、K-NFを外してみると、以前と同じような鳴り方に戻りますから、この違いはK-NFの効果のようです。記憶にある6V6のULシングルとも違う音です。

 低音がしっかり締まった感じに響くのは同じトランスを使っている6BX7シングルと似た感じです。全体に明るい感じは元と同様ですが、中域も緩さが無くなり、特にボーカルがしっかり聞こえる感じで、これは小音量でも同じ傾向です。思い切って実行した改造ですが、予想以上に効果がありました。

カソードNFをかける方法 6AQ5-S

2015年に製作した6AQ5シングルアンプ。他のアンプと比べると、キャラクタ的にいまひとつ活躍できていません。

 このアンプでは6AQ5を素のビーム管として使用しました。たいへんすっきり聴きやすい音になりましたが、同じ出力トランスを使った6BX7シングルとは対照的。これがビーム管シングルの音なのかもしれませんが、キャラ的には私の好みとは異なります。そしてスピーカーとの相性が出やすい感じで、私室の癖の悪いスピーカ相手では活躍させるのは難しい。
 オーディオアンプで6AQ5シングルの音は覚えがありませんが、原型と言われる6V6は、昔に知人の所で聴いたUL接続シングルアンプの音が印象に残っています。6AQ5もUL接続にしてやれば好ましい音になるのかもしれません。しかしそれにはULタップのある出力トランスが必要です。

 あれこれ考えた結果、もう一度カソードNFを試して見ることにしました。

手もとに使い残った小信号用トランジスタ

 このアンプに使用しているトランスにはNF巻線はありません。2次側が出力管のカソードと同相になるようにするには1次側か2次側のどちらかの接続を逆にしなければなりません。

 巻線を逆接続するのは3段でNFをかけるアンプでは普通におこなう手法です。増幅が3段だと(反転×反転×反転)=逆相ですから、出力トランスを逆接続にして初段のカソードと位相を合わせます。しかし2段アンプでは巻線を逆接続すると初段のカソードに帰還することができなくなります。

 解決策のひとつは、半導体で1段追加するか6AU6を双3極管の2段に換えるなど、3段アンプにしてしまう事。しかしこれは簡単では済まなそう。

 2段増幅の出力トランスを逆接続にすると、全体では反転増幅回路になります。そこで素直にNFをカソードではなくグリッドに返すことにします。でも、そうすると入力インピーダンスが低くなってしまい、オーディオアンプとしては使いにくなります。これを避けるためには前にバッファを置けばよいです。1倍のバッファなら、トランジスタのエミッタフォロワーが簡単です。この部分の電源は、真空管の電源から抵抗で落として作れます。

 この方法なら主要部品はそのまま使えます。筐体もそのまま使えます。期待するような効果が得られなければ元に戻すのも可能です。

 

カソードNFをかける改造 6AQ5-S

5極管と3極管の優劣。特性的な事もあり、製造上の事もある。そしてなにより、使いやすく安い3極管があるのか。

 思い切った方法としては、5極管の3極管接続というのがあります。静特性の上では3極管と同じになりますが、たいがいは大幅な感度低下あるいは出力低下となります。

 UL接続は5結と3結の中間のように説明されます。良いとこ取りという見方もあり、中途半端という意見もあります。G2はその名のようにグリッドであって制御能力がありますから、ここへ帰還しているという考え方が正しいように思います。出力トランスがからんでいるので、実際の動作は解析困難ですが、たいがいは5結とも3結とも異なる雰囲気の音になります。

 6AQ5は背丈は12BH7と同じですが細身です。


 出力トランスがらみで出力段の特性を改善するアイディアは他にもあります。その中で良く知られてるのがカソードNF。トランスの2次側から出力管のカソードに帰還します。このための巻き線を持った出力トランスもあります。

 カソードに戻してNFになるためには、出力管のカソードと同相の電圧が必要です。プッシュプルならば、2次側の4Ωが16Ωの中点である事を利用する方法もありますが、普通のシングル用のトランスを普通に使えば、2次側の出力はプレートと同相ですから、カソードに対しては逆相になります。このためシングルアンプの場合はNF用巻線を持ったトランスを使用します。

 6BM8シングルアンプに使用したトランスは2次側に16Ω端子がありました。製作の際にこれを利用してカソードNFをかける方法を思いつきました、出力トランス全体を上下逆にして、8Ω端子を接地すると16Ω端子には出力と逆相の電圧が(少し)出ます。これを利用(逆相の逆相は同相)してNFをかけたところ、ある程度の効果が確認できました。(最終的には、このアンプは当初の構想どおりUL接続にしました。)
 これをもとに、キャラクタ的に使いにくいと感じていた6AQ5シングルアンプの音質改善を試みました。これはかなり無理やりな方法だったためか、多少改善した面もありましたが、全体としては失敗でした。結局短期間で元に戻してしまいました。

 しかし、カソードNF自体には魅かれるものがあります。あらためて見直しているうちに、出力トランスは普通の使い方をして、きちんとカソードNFをかける方法を思いつきました。

2019年2月7日木曜日

小型密閉式スピーカーを鳴らす

強力なユニットを極小の密閉箱に入れると、フツウではない鳴り方をします。しかしこのスピーカーはアンプを選びます。

 [製作した12AU7-PPアンプの詳細はこちら]

 常識はずれのスピーカー。当然のように低音は絶対的に不足します。しかし(それほど大きくない音で鳴らす限り)ダラダラとレベルは低下しながらも、ずいぶん低い音までしっかり鳴っているのが判ります。ただ、このスピーカーは駆動する側から見るとたいへんしんどいはずです。

 そこで、あれこれ揃った私室のアンプに加えて居室用のアンプなども動員して、繋ぎ替えて鳴らしてみました。その結果、やはりたいへんアンプを選ぶことが判りました。プッシュプルであればそれほど問題無いのですが、どちらかというと3極管が適していて、シングルは3極管でも5極管でも全然ダメでした。いずれもNFがかかっていて、数値的なダンピングファクタはそこそこ低いはずなのですが。(おそらくNFの少ないアンプだと破綻する。)

 低音は物足りないですが、小音量であれば、自然で聞きやすい音です。そして、レベルが下がる低域をイコライザで少し持ち上げると、小さなスピーカーとは思えない音になります。
 ほとんどバッフルが無い形状のためでしょうか、このスピーカーは指向性も奇妙です。軸をはずれても音に違いが少ないです。これは片隅に置いてBGM用に鳴らすには好都合です。

12AU7-PPアンプには 低域を持ち上げるスイッチを付けました

 ほとんどネタで作った変則的なスピーカーと、ネタを固めた小出力アンプの計画が交錯しました。まず3極管のプッシュプルというのはこの性悪なスピーカーには似合いの相手。12AU7は、特性的には12BH7Aと6SN7の中間ぐらい。机上BGM用ならば出力が小ささくても問題無さそう。ヒーター電力が小さく、ドライブにオペアンプを使うので全体の消費電力は小さい。長時間連続で使うBGM用には好都合。
 そこで、このアンプには「バスブースト」機能を付けることにしました。これは昔あったラウドネスとは違って、小型のスピーカーでカットオフ付近以下の低音が不足するのを電気的に補うとことを意図したものです。メインの負帰還ループにコンデンサを挟んで低域の帰還量を減らす簡単な方式にしました。

 製作したアンプにスピーカーを繋いで鳴らし、バスブーストを入り切りしてみます。普通にBGMをかけている状態ではあまり違いが判りませんが、意識して聴けばベースラインがしっかり辿れるようになります。意図したとおりの効果が出ています。