真空管は電圧を入力して電流を加減する素子です。負荷に抵抗(あるいはコイル)を置くと、ここに電圧が生じます。この電圧で次段を駆動する。伝えるのは電圧ですから、交流的にはコンデンサで 結合してかまいません。しかも、通常の動作では入力側に電流は流れずインピーダンスが高いので、前段と後段はそれぞれ相手のことはあまり考えずに済みます。
トランジスタは基本的には電流を増大させる素子です。入力に流れる電流に応じて出力の電流がかわる。入力側の電流は流れる先の電位やインピーダンスによって変わります。とこからどこへ電流が流れ、その電流(あるいは流れる先の電位)は何で変わるのか。前から後ろからと、丁寧に電流を追って行けば流れは見えます。その上で抵抗と電流から電圧を求めてチェックする。これを真空管の時の要領で電圧から始めると混乱が混沌になります。 もうひとつ、電流が流れることで面倒になるのは前から後ろを見た時のインピーダンス。電流が流れるのが基本なので、結合にコンデンサが使いにくいです。これらを考えると、真空管のAB2級と同じ感じで、段間にトランスを使うのが簡単なように見えて当然です。
インピーダンスに合わせるため、ドライバトランスと入力トランスが使われていました。 |
トランスを使う利点のひとつが電圧の利用率が良いことです。抵抗負荷ならば電源電圧の半分ぐらいを捨てることになりますが、トランス負荷なら、オフ側では電源電圧の1.5倍ぐらい振れます。これは小型で電池駆動の装置が多かった初期のトランジスタ回路には重要なことでした。バラツキが大きいトランジスタを使う上で、余裕をあまり取らなくても済むのは楽だという事もあったでしょう。初歩のラジオ製作でも、できあいのトランスを使えばこのあたりで悩まされずに済んだのは大きかったです。
もうひとつ、トランジスタを使う上で困ったのは「温度特性」。電流を流すにはバイアスが要りますが、この電流が温度で変わる・・・というか、温度で必要なバイアス電圧が変わるので、電流が変わってしまう。これは半導体の接合の順電圧が原因なので、簡単にはダイオードか何かを入れてその順電圧でベースの電位をシフトさせれば良いのです。いわゆる「温度補償回路」です。素子自体の発熱による温度変化が問題になる(熱暴走!)出力段にはこれが必要ですが、これを入れるには前段と直流的に切り離されている方が簡単です。この点、トランス結合は好都合だったのです。